本連載は、「自動車産業変革のアクセルを踏む ~取り組むべきデジタルジャーニー~」と題したシリーズです。
第1回では、大変革の渦中にある自動車業界において、変化に対し迅速・柔軟に対応できるデジタル環境の整備が求められるなか、必要なデジタルケイパビリティや取るべきアプローチについて解説しています。

1. 自動車業界におけるDXの状況

自動車自体のソフトウェア要素の拡大や、顧客の要求に応える新しいモビリティサービスの開発・提供など、自動車業界においてもデジタル活用の必要性がますます高まっています。一方でそうした将来の動向については、まだ不確実な要素もあり、こうした変化がどのくらいのスピード、規模で起こるのか、現行ビジネスとどうやって併存させていくのかが見通せず、現時点では先を見据えたデジタル投資の見極めも難しい状況です。
また、自動車業界のオペレーションは長年にわたり利用されている多くのレガシーシステム、プラットフォームに支えられていることも、抜本的な「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の実現が困難な要因となっています。

2. 日本の自動車業界が取るべきアプローチ

こうした状況のなかで、今着手するべきは、変化に迅速・柔軟に対応できるデジタル環境を整備していくこととなります。
下図は、KPMGのグローバルDXフレームワーク「KPMG Connected Enterprise」を日本の自動車業界向けに再構成した、求められるデジタルケイパビリティの全体像です。

【KPMG Connected Enterpriseを反映したエンタープライズアーキテクチャ】

自動車業界に求められるデジタルケイパビリティ_図表1

(4)~(7)は、顧客に対する新たな価値を提供するために必要なバリューストリームに沿ったケイパビリティとなっています。しかしながら、前述のとおり、いつ、どのくらいの規模でこうしたケイパビリティが必要になるのか、現時点では判断できないため、今取り組むべきは、(1)~(3)を中心とした、変化に強いデジタル環境づくりを行い、迅速に、柔軟に対応していくこととなります。

3. 求められるデジタルケイパビリティ

【各ケイパビリティの概要】
それぞれの詳細については、第2回以降の連載で言及します。(後日公開予定)

(1)デジタルを活用したテクノロジーアーキテクチャ
柔軟性を向上させるための新しいデジタル技術への移行とともに、新しいツールとレガシーシステムを統合していくことで、レガシープラットフォームのデメリット、制約を取り除くアーキテクチャの構築

(2)データに基づくインサイト主導型戦略とアクション
顧客からの期待に対する理解の精度を向上し、モビリティサービスのさまざまな接点での収益機会を創出する仕組みづくり

(3)協業パートナーとの統合、エコシステムへの参画
下記のような連携をするための仕組みづくり

  • ソフトウェア更新のサブスクリプションなど、サービスの提供
  • 顧客に近い場所にいるパートナー企業の活用(3Dプリントのライセンス供与など)
  • 開発・生産のスピード・効率の向上、キャパシティの最適化
  • パートナー企業とのクロスチャネルサービス
  • 異業種連携による製品・サービス開発
  • カーボンニュートラル、資源循環など社会課題に対応するための連携

(4)高度な顧客体験のデザイン
全チャネルにおけるシームレス・パーソナライズされたサービス、タイムリーでアクセスしやすいサービス提供

(5)即応性の高いオペレーションとサプライチェーン
各チャネルにおける流通合理化と複雑なオペレーションの効率的な管理

(6)革新的な製品およびサービスの開発
顧客の嗜好に応じた対応のスピードアップ、選択肢の拡大と変化する所有・利用のニーズへの対応

(7)Empowered された、生産性の高い組織体制と人材
AIなどのテクノロジーを効果的に使いこなし、高い価値を創出する組織の構築、人材の活用

執筆者

KPMGコンサルティング
パートナー 犬飼 仁

自動車産業変革のアクセルを踏む ~取り組むべきデジタルジャーニー~

※今後は以下のテーマで公開を予定しています。

  • 第2回:デジタルを活用したテクノロジーアーキテクチャ

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