ゼブラ企業の創出に向けて~社会的企業支援へ高まるフィランソロピーへの期待~

本稿では、海外事例の一部を紹介し、今後の日本におけるフィランソロピーによる社会的企業支援のあり方について考察します。

本稿では、海外事例の一部を紹介し、今後の日本におけるフィランソロピーによる社会的企業支援のあり方について考察します。

2022年6月に「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(以下、「グランドデザイン」という)が公表された。同グランドデザインでは、社会的課題を解決する経済社会システムの構築が指向されており、寄付文化やベンチャー、フィランソロピーの促進など社会的企業への支援強化、インパクト投資の推進などが方針として盛り込まれている。

社会的企業とは、社会的課題の解決や社会的インパクト創出を主目的としつつ、企業としての利益の稼得も目指す企業である。株主利益の最大化を追求するスタートアップであるユニコーン企業との対比で、社会的インパクトと企業としての持続性の両立を追求する点で近年では「ゼブラ企業」とも呼ばれることもある。

財団などフィランソロピーによる社会的企業支援は、既に日本においても前例があるが、欧米のフィランソロピーによる社会的企業支援は相対的に規模が大きく、支援の形態も多様である。

本稿では、このような海外事例の一部を紹介し、今後の日本におけるフィランソロピーによる社会的企業支援のあり方について考察する。

1.財団などによる社会的企業支援

欧米では、公益団体による社会的企業支援の事例が多数ある。ここでは、一例としてシェル財団(英国)、DOEN財団(オランダ)を取り上げる。いずれの財団も社会的企業(Social Enterprises)へのハンズオン支援を行っているほか、助成金だけではなく、コンバーチブル・ローンの提供や出資などの形態での資金支援も行っている。商業ベースでのベンチャーキャピタルの投資は10年程度の期間で投資回収を行うことが一般的であるが、このような財団による投融資は短・中期的な財務リターンにとらわれない「忍耐強い資本(Patient Capital)」であることが一般的となっている。また、民間の商業ベースでの投資が入りにくい開発途上国などでの高リスク案件に対して、ファースト・ロス方式で資金を提供することで、民間の投資を促す触媒的な役割を果たすこともある。

(1)シェル財団

英国に本拠地を置くシェル財団は、開発途上国における社会的企業への投融資を行っている。対象分野はサステナブルなエネルギーアクセスやモビリティなどである。次のように支援相手となる企業のステージに沿って、助成金やインパクト投資などの資金提供のほか、ハンズオンの支援を行っている。

  1. インキュベーション:
    新しいビジネスモデルや新製品を有し、まだ売り上げがほぼ確立できていない企業に対する支援。財団は助成金の拠出や事業戦略、資金調達戦略、マーケティングなどの助言・支援も行う。
  2. パイロット:
    製品やサービスをテストしている段階で、プロダクト・マーケット・フィット、ユニット・エコノミクス(単位当たりの採算性)の確立に取り組んでいる企業が対象。財団は実証事業の支援、パートナー企業の紹介などの支援を行う。
  3. スケールアップ:
    プロダクト・マーケット・フィットが確認され、3年以内にはユニット・エコノミクスが確立しそうな段階で、ビジネスモデルをさらに洗練させ、経営チームやガバナンスを確立していく段階の企業が対象。財団は資金面での支援に加え、ITや財務システム、サプライチェーン管理、経営陣の採用や指導などの支援を行う。
  4. 国外市場への拡大
    1,500万ドル以上の収益を上げることができ、収益性あるユニット・エコノミクスを実現している事業のグローバル展開を探る段階で、事業拡大に向けたエクイティやデットの資金調達を必要とする企業が対象。財団は独自のネットワークを活かしつつ、多国籍市場への展開を支援する。

事例:SparkMeter社への支援

SparkMeter社は、電気事業者向けに低コストのプリペイド対応スマートメータソリューションを開発する、米国ワシントンD.C.に拠点を置くスタートアップである。同社は、アジア、サブサハラ・アフリカ、ラテンアメリカ・カリブ海地域の低所得農村地域に焦点を当てている。

シェル財団は同社に助成金を拠出しているほか、2015~2019年にかけて同社の顧客基盤とグローバル・リーチの拡大、経営層の強化、ガバナンス構築といった面での支援を行った。

(2)DOEN財団

オランダを拠点とするDOEN財団は、宝くじ販売の利益からの寄付を受けて活動する財団である。オランダ国内外でクリーンエネルギー、サーキュラーエコノミー、社会包摂などの分野の社会的企業や、芸術・文化に対する支援を行っている。社会的企業の初期段階の資金提供者として、触媒的な役割を果たすケースや、最初に助成金を提供し、次に融資を提供し、最終的に株式に出資するというケースもある。助成金ではなく、融資という形で資金を受け、それを着実に返済できれば、企業としては良いクレジット・ヒストリーとなり、商業ベースでの融資を受けやすくなるというメリットもあると考えられる。

  1. 助成金
    ―プロジェクト助成金(組織によって行われる特定のプロジェクトのための寄付)
    ―プログラム助成金(組織の特定の専門家を支援するための寄付)
    ―組織への助成金(組織全体を支援するための寄付)
    ―条件付き助成金(組織の事業によって十分な収入が得られるようになった場合に返済される寄付)
  2. 融資(担保がないなど、商業銀行での借り入れが困難なケースが対象)
  3. コンバーチブル・ローン
  4. 株式出資(アーリーステージの社会的企業への出資)

DOENは2020年12月31日現在で59件の直接投資、融資、コンバーチブル・ローンの提供、18件のファンドへの投資を行っている。資金提供のほか、ハンズオン支援も行っている。

事例:De Prael社への支援
De Prael社はオランダ国内において、病気や障がいなどで仕事を見つけることが困難な人々の雇用のために、ビール醸造所、レストラン、小売店を運営する企業である。

DOENはDe Prael社に2004年に最初の助成金を提供、2013年にはコンバーチブル・ローンを提供している。

2.日本における公益法人制度と社会的企業支援

日本における現行の公益法人制度は、以下のような仕組みとなっている。寄付税制上の優遇措置があることから、アカウンタビリティを果たすことやガバナンス構築をしっかりと行っていくことが必要となっており、公益事業を行うには一定の要件が求められている。

  • 日本における現行の公益法人制度には、社団と財団の法人類型があり、それぞれ必要な要件を満たしたのちに審査を受け、内閣府や都道府県により公益認定されることで、それぞれ公益社団法人、公益財団法人となる。
  • 公益社団法人・公益財団法人は、寄付税制上の優遇措置があり、個人が公益社団法人・公益財団法人に寄付を行った場合には、所得税上の所得控除や税額控除があるほか、譲渡所得税や相続税の非課税対象となる。このため、富裕層のフィランソロピーとして用いられることも多く、寄付も集めやすい。
  • 一方で、公益認定を受けるためには、法律上定められた公益目的事業に該当する事業を行うことや、収支相償であることなどが求められるなど、事業を行っていく上での要件が存在するため、ある程度事業の自由度が制限される。

図表 公益認定の仕組み

ゼブラ企業の創出に向けて~社会的企業支援へ高まるフィランソロピーへの期待~-1

出所:内閣府ウェブサイトを基にKPMG作成


内閣府では「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」を立ち上げており、同会議の最終報告書(案)がとりまとめられている(2023年5月24日現在)。同報告書(案)では、より柔軟・迅速な公益的活動の展開を目指し、例えば収支相償原則については中期的な収支均衡を図る仕組みに見直すことや、公益認定の迅速化、ガバナンスや開示の充実、インパクト測定の普及などが盛り込まれている。また、公益目的事業としての出資については、社会的課題解決に資する資金供給の一環として公益性を認定する際の考え方・基準を整理・明確化する、とされている。

公益法人制度が柔軟になることによって、今後、必ずしもIPOやM&Aというような形でのエグジットを求めない、長期的な視点での社会的企業への出資などの支援がさらに拡充していくことが期待される。一方で、ハンズオン型の事業活動の支援も拡大することが望ましいが、公益法人セクターでの人的リソースにも限りがある。民間企業や各種専門家と公益法人等との人材交流や情報交換などを促すような施策も期待される。

執筆者

KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクター
マネージング・ディレクター 柏木 健志

あずさ監査法人
マネジャー 濱田 正章

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