人口急減・超高齢化社会下における地方行政サービスの継続性

地方においてニーズに合致した行政サービスを維持する上での課題と必要な改革について解説します。

地方においてニーズに合致した行政サービスを維持する上での課題と必要な改革について解説します。

国立社会保障・人口問題研究所が2023年4月26日に発表した「日本の将来推計人口」によると、50年後には総人口が現在の約7割に減少し、65歳以上の人口がおよそ4割を占めると予測されている。人口急減・超高齢化社会においては、人口減に伴う税収減少だけでなく、行政サービスの担い手である地方公務員の不足もまた懸念される。

地方を支える行政サービスは、大きく(1)住民サービス、(2)教育サービス、(3)保健・医療・福祉サービス、(4)公共工事サービス、(5)環境管理サービス、(6)防災サービスの6つに分類される。これらは、人口動態等の社会変化を見据えた適切な見直しなしには、いずれも継続が困難になると想定される。

今後、地方において行政サービスを維持するためには、ニーズと提供範囲、提供主体がどのように時代にあわせて変化するかを先読みしながら、ニーズに合致した行政サービスを提供していくために必要な改革を計画、実行していくことが求められる。

1.地方行政を取り巻く環境と課題

国立社会保障・人口問題研究所は、2023年4月26日に「日本の将来推計人口」を発表した。推計によると、日本人に限定した出生中位・死亡中位推計では、約50年後(2070年)には総人口が現在の約7割(7,761万人)に減少し、65歳以上の人口がおよそ4割(40.9%)を占める結果となっている。働き手・担い手という視点から眺めると、2020年時点で7,509万人であった生産年齢人口(15~64歳)は、約50年後(2070年)には、4,535万人まで減少すると推計されている。

大都市圏(首都圏、関西圏、中京圏(静岡含む))とそれ以外の地方の人口動態の変化については、同研究所が2018年12月25日に発表した「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」に2045年までの推計結果が示されている。当該推計結果をもとに、2015年比で30年後(2045年)にどの程度人口が変化するかを確認すると、以下のとおりである。

図表1 人口変化率(全体・生産年齢)の推計(2015-2045年)

人口急減・超高齢化社会下における地方行政サービスの継続性-1

出典:『日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)』(国立社会保障・人口問題研究所)をもとにあずさ監査法人作成


2015-2045年の推計においては、全体の人口では47都道府県のうち東京都を除く46都道府県において人口減少が確認できることが分かる。また、生産年齢の人口に目を向けると、47都道府県全てにおいて人口減少が確認できる。また、本推計期間において、特に人口の減少率が大きい都道府県、人口の減少率が小さい都道府県については次のとおりである。

図表2 人口変化率(2015-2045年)における上位、下位5位の都道府県

人口急減・超高齢化社会下における地方行政サービスの継続性-2

出典:『日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)』(国立社会保障・人口問題研究所)をもとにあずさ監査法人作成


図表2に示すとおり、特に東北地方、四国地方各県においては、減少率の幅がかなり大きいことが読み取れる。全人口の減少率と比較して生産年齢人口の減少率はさらに大きく、減少率の差分はおおよそ8~15%程度となっている。働き手である生産年齢人口の減少は、各地方における税収の減少に直結するだけでなく、地方行政の担い手である公務員の成り手自体の減少にも直結する。したがって、今後、地方の行政サービスを地域住民のニーズに見合った形で維持していくために、地方行政は税収の減少、成り手の減少といった環境変化に耐えうる組織・業務形態に自己変革することが求められる。

2.地方において必要とされる行政サービスと今後の対策・課題

行政サービスはどのような要素によって構成されているのだろうか。地方自治体が住民に対して提供するサービスは広範に渡るが、大きく以下の6つに分けて考えることができる。

図表3 6つの行政サービス

人口急減・超高齢化社会下における地方行政サービスの継続性-3

これらはいずれも地域住民の生活に欠かせない要素である。一方で、これらの行政サービスを支える財源に目を向けると、行政サービスを支える税収状況は地域で異なり、財政格差は依然として存在する。

2008年度の税制改正において「地方法人特別税」、「地方特別譲与税」が創設された。地域間の格差是正が進められてきてはいるものの、税収の減少傾向や地域間財政格差を踏まえると、行政サービスの効率化を大きく推進する対策が打たれなければ、地方自治体によってはこれまでの行政サービスの水準が維持できなくなる可能性がある。

財政の健全性を踏まえた財源の確保、公務員人材の確保・育成といった観点も重要であるが、具体的な打ち手を想像しやすく即効性が高いと考えられるのは、最新のデジタル技術を活用した効率化と考えられる。具体的には、以下のような技術が想定される。

図表4 行政サービスの効率化に資すると考えられるデジタル技術の活用と事例

人口急減・超高齢化社会下における地方行政サービスの継続性-4

これらの技術の採用を積極的に進める一方、これらのデジタル技術を採用し、行政サービスの効率化を進めるうえでは、いくつか解消しなければならない課題がある点に留意したい。以下、代表的な課題を3点示す。

まず、「デジタル技術に対するリテラシーの不足、デジタル格差」が挙げられる。いずれの技術を採用する場合においても、行政サービスの提供者側、利用者側の両方において、それぞれの技術に関するスキルや知識が必要不可欠であり、最低限のリスクとベネフィットを理解しておく必要がある。

しかしながら、それぞれの地域において、これらの技術に係る必要なスキルや知識を持つ人材の確保は、容易ではない。また、利用者のうち特に高齢者や障碍者においてもデジタル技術の利用が容易ではない可能性がある。そのため、両者の目線に応じたきめ細かな教育プログラムの整備が必要である。

次に、「デジタル技術における情報セキュリティとデータの取扱い」が挙げられる。デジタル技術の活用には、多くのデータの収集・蓄積と、安全な管理が求められる。文字、画像、映像といったデータから位置情報や個人情報に至るまで、その取扱いの範囲は広い。そのため、強固なセキュリティの下でこれらの情報を管理する必要がある。また、データ収集の前段階において、データ提供に係る同意(オプトアウトで良いか、オプトインとしなければならないか)についても整理し、地域住民から合意を得ておく必要がある。

3点目として、「行政サービスがデジタル技術に置き換わることによって生じる人と人との触れ合いの減少に伴うケア」が挙げられる。デジタル技術の活用が進めば進むほど、行政サービスの提供側と、地域住民側の接触頻度の減少が想定される。一方で、地域住民のうち高齢者等の要支援者は行政の日常的かつ継続的な支援を必要とすることが多く、急病や転倒・落下等の不測の事態が発生した際に、人による支援が何より重要となる。そのため、行政サービスの提供側においては、デジタル技術の活用による行政サービスの提供側の負荷の軽減を実現するだけでなく、対面のみならずSNSも最大限活用しつつ地域住民とのコミュニケーションの時間を作り出す等の対応が必要であると考えられる。

3.行政サービスを維持するために求められる取組み

ここまで、地方行政を取り巻く環境、行政サービスの効率化に即効性のあるデジタル技術の活用、活用するうえでの課題について触れてきた。人口急減・超高齢化社会にあって、地方行政の現場では人材不足や財政的な制約の厳しさが懸念されている。本項では、デジタル技術の活用による行政サービスの効率化だけでなく、行政サービスを提供する組織、業務における施策の必要性について言及したい。

具体的な施策としては、(1)運営体制・業務のスリム化、(2)地域産業の振興促進、(3)地域包括ケアシステムの高度化の「3つの取組み」が挙げられる。

(1)運営体制・業務のスリム化

各地域における人口動態の変化予測をもとに、最低限必要とされる運営体制を検討・計画化し、デジタル技術の活用を前提とした業務の進め方に変革していく。地域で必要とされる行政サービス水準の維持を念頭に、デジタル技術の活用を前提とした組織、業務にブラッシュアップし、地方行政の提供者側がコア業務に集中できる環境を構築したい。

(2)地域産業の振興促進

生産人口の減少に伴う税収の減少を緩和し、デジタル技術の活用を通じた地域経済の活性化を目指す。各地域における観光、文化資源や産業的特色をデジタル技術と融合させるなど、新たな独自性のあるサービスの創出が期待される。

(3)地域包括ケアシステムの高度化

高齢者福祉や介護サービスへの取組みを充実させ、高齢者が安心して余生を送ることができる環境を整備する。取組みの具体的な例として、これまで医療、介護、保健の各サービスは、それぞれ、住民の健康づくりを担う保健衛生担当部局、介護予防を担う介護保険担当部局、健診を担う広域連合が独立して実施してきたために、包括的な保健サービスを提供しにくい現状があったが、令和2年4月にそれらが一体的に実施できるよう法改正が行われ、現在、厚生労働省を中心に一体的実施を更に有効なものとするためのガイドラインの見直しや医療、介護、保健の各データを活用した共通プラットフォームの整備等が進められている。

4.おわりに

今後、人口急減・超高齢化の流れの中で、地方の行政サービスを地域社会のニーズにマッチした形で維持・提供していくためには、「デジタルサービスの活用による効率化」と「3つの取組み」を並行して進めていく必要がある。

前者の推進においては、技術を採用する上でのコストや費用対効果も課題となる。しかし、急激な社会変化に対応するために、抜本的、かつ、待ったなしの行政サービスの効率化が求められている。監督省庁主導の下、デジタル技術の採用による補助金等のインセンティブを用意するなど、コストを吸収しつつ、「デジタルサービスの活用による効率化」を中央・地方一体で加速化させていく必要がある。

後者の推進においては、必要とされる行政サービスと提供可能性を十分に検討しないまま、組織・業務のスリム化を強力に推進しないように留意したい。さもなければ、居住地域によって受けられる行政サービスの水準の格差が急拡大する可能性がある。そのため、サービスの提供範囲や内容等の縮小による地域住民の不利益が発生しないよう、細心の注意を払いながら、「3つの取組み」を進める必要がある。

執筆者

KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクター
コンサルティング事業部
マネジャー 山田 将之
ディレクター 林 哲也

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