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  • サービス: アドバイザリー, リスクコンサルティング, マネジメントコンサルティング
  • タイプ: 解説
  • 日付: 2011/01/20

米国証券取引委員会(SEC)、金融規制改革法に基づく新たな開示規則案を公表(1) ~コンゴ民主共和国の紛争鉱物~ 

2010年7月21日、米国において金融規制改革法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act of 2010)がオバマ大統領の署名により成立しました※1。これを受け、米国証券取引委員会(US Securities and Exchange Commission、"SEC")は2010年12月15日、鉱物資源の原産国、鉱物・エネルギー資源の商業開発等に関する新たな開示規則案を公表しました※2

金融規制改革法は、2008年のリーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発した世界金融危機の教訓を踏まえ、危機の再発防止を目的として制定されたものです。銀行による自己勘定取引を原則禁止する「ボルカー・ルール」を柱とするなど、金融機関に対する監督・規制の強化が主な内容となっています。
しかし同法には、特定の鉱物を生産に使用する企業や、鉱物・エネルギー資源の探査・開発等を行う企業に対して、SECに提出する年次報告書における新たな報告義務を課す内容が含まれています。具体的な内容はSECが公表する規則によって定められます。新規則の内容は日本企業の実務にも大きな影響を及ぼす可能性があり、その内容は注目に値します。

本ニューズレターでは、2010年12月15日にSECが公表した金融規制改革法に基づく開示規則案のうち、以下の章に関するものを取り上げます。

1502章:

紛争鉱物(Conflict minerals)

なお「資源採取企業による支出の開示」について別のニューズレターで取り上げています※3

※1
金融規制改革法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act of 2010)
※2
SECが2010年12月15日に公表した開示規則案には下記以外のものもありますが、下記の二つが特に環境・CSRに関連が深いと考えられます。
Specialized Disclosure of Use of Conflict Minerals
Rules for Resource Extraction Issuers
※3
弊社ニューズレターをご参照ください
「米国証券取引委員会(SEC)、金融規制改革法に基づく新たな開示規則案を公表(2)~資源採取企業による政府への支出~」

「紛争鉱物」に関する開示規則案の概要

SECが公表した開示規則案の概要を以下に紹介します。ただし後述の「今後のスケジュール」にあるように、これは確定版ではなく、パブリックコメントを募集するための案としてSECが提案したものです。

対象企業

以下の二つの条件を満たす企業に新たな開示規則が適用されます。

  • 米国証券取引法(Securities Exchange Act of 1934)の規則13(a)又は規則15(d)に基づき、SECに対し報告書を提出していること。かつ、
  • 「紛争鉱物(Conflict Minerals)」が、企業が自ら製造している、又は製造を外注している製品の機能又は生産にとって必要であること。

二つ目の条件について、以下のいずれかの条件を満たす場合、企業は「製品の製造を外注している」と解釈されます。

  • 企業が製品の製造に何らかの影響力を有すること。又は、
  • 企業が製品の製造に影響力を有するかどうかを問わず、自社ブランド名又は別個に設立したブランド名において製品を販売していること。ただし、製品を特別に自社のために生産するよう企業が発注している場合に限る。

開示規則は、米国企業、外国企業及び小規模企業に対して等しく適用されます。

報告対象物質

報告対象となる「紛争鉱物」として、「すず石、コロンバイト・タンタライト、金、鉄マンガン重石、又はそれらの派生物(cassiterite, columbite-tantalite, gold, wolframite, or their derivatives)」が特定されています。
一般的には、これらを原料とし生産されるすず、タンタル、金、タングステンの4種類の金属を指すものと解されます。

報告内容

対象企業は年次報告書(Form 10-K、外国企業の場合はForm 20-F)において、コンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo、以下"DRC")及びその隣接国が紛争鉱物の原産国となっているか否かを、原産国に関する合理的な調査を踏まえ、開示することが求められます。
紛争鉱物の原産国がDRC及びその隣接国ではないと判断した場合、調査プロセスについて開示すると共に、同様の内容をインターネット・ウェブサイト上でも開示することが求められます。
紛争鉱物の原産国がDRC及びその隣接国であると判断した場合や、いずれとも判断がつかない場合、当該結論について開示し、年次報告書の添付文書として「紛争鉱物報告書(Conflict Minerals Report)」を作成・提出すると共に、「紛争鉱物報告書」をインターネット・ウェブサイト上でも開示することが求められます。

「紛争鉱物報告書」には、紛争鉱物の起源と流通過程について企業が正当な注意(due diligence)を果たすために実施した手段等を記載することが求められます※4。「正当な注意」には、米会計検査院長官が定めた基準に基づき民間部門が実施する独立監査が含まれ、監査報告書を開示することが求められます。
その他、「紛争鉱物報告書」には以下の内容を記載することが求められます。

  • 「DRC紛争と無関係(DRC conflict free)」ではない紛争鉱物を含有する製品の説明
  • 当該紛争鉱物の加工施設
  • 当該紛争鉱物の原産国
  • 鉱山又は原産地をできる限り具体的に特定するための努力

鉱山起源ではなくリサイクル又はスクラップ起源の紛争鉱物を使用している場合、企業はその旨を記載した「紛争鉱物報告書」を提出することで、紛争鉱物が「DRC紛争と無関係」と主張することができます。ただしこの場合も「紛争鉱物報告書」は民間部門による独立監査の対象となります。

適用時期

金融規制改革法1502条は対象企業に対し、SECが最終開示規則を公表してから最初に開始する事業年度から、紛争鉱物に関する開示を行うことを求めています。2011年4月に最終開示規則が公表・適用されることを前提とすると、12月決算会社については2012年12月期から、3月決算会社については2013年3月期から、開示要求が適用されることとなります。

今後のスケジュール

SECは新たな開示規則案に対し、2011年1月31日までパブリックコメントを募集する旨を表明しています。
金融規制改革法1502条はSECに対し、同法の施行から270日以内に、最終開示規則を公表することを要求しています。従ってSECは、今回のパブリックコメント募集で得られたインプットを踏まえた最終開示規則を、同法の施行日である2010年7月21日から270日以内、すなわち2011年4月15日までに公表するものと予想されます。

※4
正当な注意(due diligence)に関して、経済協力開発機構(OECD)が2010年12月に"Due Diligence Guidance for responsible supply chains of minerals from conflict-affected and high-risk areas"というガイダンス文書を公表しており、SECの開示規則においても重要な参考資料になると思われます。

背景

米国の金融システムの安定を主目的とし、鉱山資源の原産国とは縁がないように思われる金融規制改革法に、なぜ紛争鉱物の開示規則が盛り込まれたのでしょうか。
金融規制改革法1502条によれば、米国連邦議会は「DRCを起源とする紛争鉱物の開発及び取引が、東部DRCにおける、特に性的及び性差による極限的な暴力を伴う紛争の資金源となっており、人道に関する非常事態を生じさせているとの認識を踏まえ、開示要求を制定するに至った」としています※5
ただし米国証券取引法が投資家保護と目的とするものである以上、同法に基づく開示規則も、一義的には投資家の保護を目的とするものです。今回の開示規則は、DRCにおける人権侵害の抑制・防止という政策目的を達しながら、DRC起源の紛争鉱物を使用する企業へ投資する投資家が適切なリスク評価等を実施することができるよう、投資家保護を図ったものと考えられます

実務的な影響

「紛争鉱物」として特定されているタンタル・すず・金及びタングステンは、携帯電話・コンピュータ・デジタルカメラ等の電子機器、ジェットエンジン等の航空宇宙機器、溶接機器、宝飾品等の様々な製品に使用されています。このため今回の開示規則は、結果として「紛争鉱物報告書」の作成・開示が求められるかどうかは別として、広範な企業に対し4種類の紛争鉱物の原産国調査を求めるものになると予想されます。
SEC登録企業である二十数社の日本企業は、SECに対し年次報告書(Form 20-F)を提出しています。最終開示規則が公表されると、これらの日本企業は直接的な影響を受けることとなります。

SECに対し報告書を提出する義務のない日本企業には、直接的な影響は生じないと考えられます。しかし、SECの開示規則案は米国企業に対し「原産国に関する合理的な調査」の実施を求めており、この調査は紛争鉱物の源泉までサプライチェーンを遡って実施することが想定されます。従って日本企業のうち、米国企業に対し紛争鉱物自体やそれを含有する原料・半製品を販売する企業、米国企業ブランド名で受託生産を行う企業、工程で紛争鉱物を使用する企業等は、米国企業と同様の「原産国に関する合理的な調査」を実施して紛争鉱物の起源を確かめることが、間接的に求められてくる可能性は低くないと言えるでしょう。

※5
今回の開示規則の背景について、資源・環境ジャーナリストの谷口正次氏が詳細に考察されています。
「米国の金融規制改革法案と、コンゴのレアメタル ハイテク企業に課せられる社会的責任」
日経ビジネスONLINE、谷口正次氏、2010年8月4日
 

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