グローバルの展望

世界経済やコスト上昇により、自動車業界のエグゼクティブは今後5年間で自動車業界がより高い収益性を伴って成長できるという確信を失いつつあります。強く確信していると回答した日本のエグゼクティブの割合は32%から10%に減少しました。西欧では31%から24%に、米国では48%から43%に減少しました。唯一、中国では強く確信していると回答した割合が28%から36%に増加しています。

3分の2の自動車メーカーが2024年に5~10%の価格の引上げを予想していますが、競争の激化やインフレ圧力の低下により、価格の引上げは予想よりも難しいでしょう。

パワートレインの未来

エグゼクティブは、電気自動車(BEV)の普及速度についてより現実的な見方をするようになってきました。2030年に中国では新車販売の36%がBEVになると予想され、米国、日本、西欧でも浸透率は30~33%に達する見込みです。一方、インドとブラジルでは電力インフラと所得の問題によってBEVの販売が伸び悩んでいます。

エグゼクティブが予想する、2030年におけるBEVの市場リーダーのトップはTeslaです。ベルリン近くに組立工場を開設したことで、Teslaはシェアを増やし、欧州のエグゼクティブの間ではグローバル競争への認識を高めています。

エグゼクティブは、BEVのコストが補助金なしで従来の内燃機関(ICE)車と同等になる時期の予想について、少し慎重になっています。2022年の調査では、70%のエグゼクティブが2030年までにBEVのコストはICE車と同程度になると見ていましたが、最新の調査では66%でした。

デジタル消費者 - 消費行動のデジタル化

エグゼクティブは、性能とシームレスなカスタマーエクスペリエンスが購入決定の重要な要素になると見ています。スムーズなカスタマーエクスペリエンスの強化には、車の購入から車内のオペレーティングソフトウェアの活用まで幅広い対応が必要です。

自動車業界は消費者が車をオンラインでの購入を期待していると認識しており、エグゼクティブは、2030年までに新車の63%がオンライン小売プラットフォームや自動車メーカーを通じて直接消費者に販売されると予想しています。

自動車のデータセキュリティは重要なリスクです。広く報じられたデータ漏洩にもかかわらず、エグゼクティブの68%は自動車メーカーのサイバーセキュリティと顧客データの保護は十分であると考えていますが、それは過信の可能性があります。

脆弱なサプライチェーン

中国を除いたエグゼクティブの49%が、今後5年間でリチウム、コバルト、その他のバッテリー部品へのアクセスについて、非常に、またはとても懸念しています。これに対し、中国のエグゼクティブの懸念は28%でした。これは、中国が主要な商品、特にBEVのバッテリーと部品の原材料の供給について、大部分を担ってきたためだと考えられます。

パンデミックや地政学的緊張の影響で、企業は原材料の供給を確保するためにさまざまな戦略を採用しており、サプライチェーンマネジメントの新たな基準は、「ジャストインタイム」よりも「ジャストインケース(予防策)」になっています。

新たなテクノロジー

エグゼクティブのうち、AI、デジタルツイン、先端ロボティクスなどの先進技術に対して十分に備えができていると感じているのはわずか10%で、2022年の20%から減少しています。

生成AIの急速な進化に伴い、自動車メーカーは、社員にAIの活用に関するトレーニングを行う必要性が高まっています。今後、自動車メーカーは、AIのスキルを持つ人材を求めて、ほかの業界や同業他社と競合することになるでしょう。

自動車技術の迅速な進展を受け、84%のエグゼクティブはテクノロジー企業とパートナーシップを組むことは重要であると考えています。その一方で、エグゼクティブは、AppleやGoogleなどのテクノロジー企業が自社ブランドの車で自動車市場に参入するとも予想しています。

今何をすべきか

自動車業界の変革において、トップリーダーが自社の立場をより優位にするために優先すべき事項は以下の4つです。

リスクにヘッジをかけ、将来の展望にコミットしましょう

メーカーはICEとその代替手段を選択するリスクにヘッジをかけるべきですが、過度なヘッジは、競合他社に負けるリスクを高めてしまいます。そうならないためには、異なる視点を持つ多様な人材からなるチームを構築し、最適な戦略を選択することです。

すべてにAIを組み込む準備をしましょう

今後、自動車の設計や製造方法から販売方法、運転方法まで、すべてにおいてAIが関与することになるでしょう。自動車メーカーのエグゼクティブにとって、将来を見据えた包括的なAI戦略を持つことが重要となります。

必要なパートナーを見つけましょう

自動車関連企業は自社の研究開発を強化するために、アイデアやノウハウを求めて提携やビジネスパートナーを見つける以外に方法はありません。

グローバルな課題に立ち向かいましょう

BEVへの移行は世界各地で異なる速度で進んでおり、企業は市場の差異を利益に変えるためのグローバル戦略を持つことが求められます。また、地政学的な混乱や経済の変化に対するレジリエンスの構築も必要です。

<付録>日本における消費者調査結果

上記のグローバルサーベイに加え、2023年11月に日本国内在住の自動車保有者(18歳から64歳)にアンケートを実施し、6,000名の回答を得られました。下記のアンケート項目について分析し考察をします。

<日本消費者アンケートの内容>

  • 電動化に対する見解
  • 自動運転の実用化に対する見解
  • 消費者行動のデジタル化に対する見解
  • SDGsを意識した消費に対する見解

KPMGグローバル・オートモーティブ・エグゼクティブ・サーベイ