本連載は、日本経済新聞(2023年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

メタバース空間でZ世代の理解と信頼を獲得するには?

メタバース(仮想空間)にはさまざまな定義がありますが、「多人数が参加でき、参加者がそのなかで自由に行動できるインターネット上に構築された仮想の3次元空間」と言えます。ユーザーは自分のアバターを操作して空間内を移動し、他の参加者と交流します。

Z世代はアバターの顔やファッションを自由に選び、メタバース空間上で友人と交流できる「メタバースSNS」を楽しんでいます。オンラインゲームも広義の意味でメタバースと定義され、友人と遊んだり雑談を楽しんだりすることが可能です。メタバースをZ世代が集まるコミュニティの1つと捉えれば、メタバースは企業がZ世代にアプローチできるチャネルと言えるでしょう。

企業がメタバースを活用する目的には、「新規事業」「生産性の向上」「マーケティング」の3つがあると考えられます。リアルの事業をメタバース上で新規事業として展開する「バーチャルイベント」、生産性向上のため社員のコミュニケーションを円滑にしようと活用する例などもありますが、一般の企業にとって活用目的の多くはマーケティングとなります。

メタバースはZ世代が時間を費やすコミュニティの1つである可能性が高いと言えます。たとえば、米エピックゲームズの人気オンラインゲーム「フォートナイト」は、ゲームをプレーするだけでなくユーザー同士がコミュニケーションする空間としても使われています。同社が提供するゲーム開発エンジンを活用して、ユーザー同士が自由に遊べる空間を構築できるようにするなど、ゲーム内にメタバース空間を実現しています。

さらに、企業がゲーム内に構築されたメタバース空間を活用して、ユーザーに自社ブランドの世界観を体験してもらうマーケティングを展開した例もあります。

米スポーツ用品大手のナイキは、2023年6月、エピックゲームズと組んで人気スニーカー「エアマックス」をテーマに、フォートナイトの要素を組み合わせた仮想空間「Airphoria(エアフォリア)」を提供しました。仮想空間内でプレーヤーにエアマックスの世界観を体感させ、現実世界での商品に対する好意を醸成するのが狙いです。

エアフォリアでは、ユーザーはタスクをクリアすることでアバターに装着するアクセサリーを獲得できます。仮想空間内のアイテムショップで限定アイテムを販売するなど、空間体験のみならず、アクセサリーを通してオンライン上でファンとのつながりを構築しています。仮想空間のコレクションを実際に販売してオンライン・オフラインをまたいだマーケティングの展開にもつなげています。

Z世代にアプローチするうえでカギとなるのが、彼らが所属するコミュニティに対する深い理解と、参加者たちのエンゲージメント(興味・関心)を高めるコンテンツの提供です。今後の消費の中心となるZ世代からの信頼獲得は「待ったなし」であり、そうした取組みに早期に着手したブランドほど生き残りにつながることになると考えられます。

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

日経産業新聞 2023年10月3日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング 
シニアコンサルタント 髙野 洋介

Z世代マーケティング

お問合せ