本連載は、日本経済新聞(2023年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

リアルスポーツ広告とは違う、新たな顧客獲得方法

Z世代が熱狂するものの1つに、コンピュータゲームなどの腕を競う「eスポーツ」があります。2023年に日本で行われた国際的なゲーム大会では、20代の若者を中心に多数のZ世代が応援グッズを携えて集まりました。大会期間中の合計では数万人規模のeスポーツファンが来場したと言います。

Z世代が熱狂するeスポーツですが、元々コンテンツ提供企業ではない企業のアプローチ方法は主にスポンサーシップとなります。具体的には、(1)eスポーツで活躍する選手やチームの支援(2)選手たちの活躍の場であるeスポーツ大会などのイベント開催(3)イベント開催場所となるeスポーツ関連施設の活用の3つの方法があります。

企業がeスポーツで活躍する選手やチームを支援することで、そこに紐づくファンにアプローチできるようになります。商品・サービスを選手と共同開発したり、選手の人気を販売に活用したりすることも可能となります。また、eスポーツ大会などイベントのスポンサーになれば、会場で通常のテレビCMより長い「インフォマーシャル(インフォメーション+コマーシャル)」で商品の広告動画を流し、来場者向けに自社商品を販売できるなど、場を活用したマーケティングが可能になります。さらに、eスポーツ関連施設へのスポンサーシップでは、施設の利用者に自社商品の体験機会を提供したり、現場で消費者の生の声を収集したりすることで商品開発に活用できるようにもなります。

eスポーツでの企業のスポンサーシップは、サッカーや野球などリアルスポーツのスポンサーシップと類似点が多々あります。企業がeスポーツのスポンサーになる理由には、「ターゲット」「コスト」「露出機会」の3つの観点があります。

ターゲットという点では、リアルスポーツ、特にサッカーや野球のファンは高齢化が進んでおり、6割超が40代以上となっているのに対し、eスポーツのファンは今後消費の担い手となっていくZ世代が中心という違いがあります。コストの点では、eスポーツは新しい媒体であるため、コストの相場観は定まっていない状況です。露出機会という点では、リアルスポーツでファンに提供できるのは主に競技シーンの視聴になるため、ブランドへの接触機会はオンライン・オフラインの試合観戦が中心となるのに対し、eスポーツではファンへの提供コンテンツが競技シーンの視聴だけでなく、ゲーム実況・ゲーム配信などもあり、ブランドの露出機会が多いという特徴があります。

Z世代にアプローチすることで、自社の商品・サービスのファン層の若返りを目指したい、または自社ブランドの継続性を向上させたいなどと考える企業にとって、eスポーツは検討の価値がある場と言えるでしょう。

日経産業新聞 2023年10月2日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング 
シニアコンサルタント 髙野 洋介

Z世代マーケティング

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