本連載は、日刊工業新聞(2023年9月~11月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

社員の学ぶモチベーションを高める3つの要素とは

第4回は、企業と社員との関係が変化している今日では、自律的なキャリア形成が必要であると解説しました。今回は、学ぶモチベーションが上がりにくい日本企業のカルチャーについて解説します。

日本企業で働く社員で、自身のキャリアを主体的に考えている人は多いとは言えません。この傾向は、特に40歳以上のベテラン・シニア人材に見られがちです。高度経済成長期から続いた日本の雇用慣行や、人事制度に根差す根幹的な要因が大きいためと考えられます。

特定の企業で定年まで働き続ける終身雇用、職務範囲を明確に定めないゼネラリスト中心の雇用慣行、年功序列の要素を残した昇格運用などにより、社員は長期的な観点から自身のキャリアについて考える必要がありませんでした。そのため、「学び」を主体的に考えることについて不慣れになったと言えます。「会社から自律的なキャリア形成を求められることに、ストレスや息苦しさを感じる」という声すら聞くことがあります。

このような伝統的な日本の人事慣行に代わる仕組みとして、今注目されているのが「ジョブ型人事制度」です。職務(ジョブ)に見合う人材を登用する制度で、仕事内容・責任範囲・役割が提示され、それによって報酬が決められます。

デジタル変革(DX)が推進され、多くの企業でデジタル人材が求められるなか、ジョブ型は職務に求めるスキルを明確にするので、リスキリングとの相性は良いと言えます。一方、職務を精緻に定義し過ぎると変化に柔軟に対応することができず、制度が形骸化するリスクがあります。

また、担当者が不明確な業務を行う人がいなくなったり、「職務で決められた仕事以外はやらない」という人材も出たりすることで、個人の成長につながりにくい場合もあります。ジョブ型人事制度の導入においては、運用が硬直化しないよう、職務をどのくらいの粒度で定義するかを考えながら検討することが重要となります。

では、伝統的な日本型人事制度が時代遅れで全く機能しないのかというと、そうではありません。たとえばジョブローテーション制度は、異なる職場環境でさまざまな業務にチャレンジすることで、社員に大きく成長する機会を与えてくれます。

問題は、職務内容や求めるスキルが不明確なことに加え、仕事の目的や期待される成果、進めるうえでの勘所といった本質的な事項が属人的になってしまうことです。職務に応じて「仕事内容」「責任範囲」「役割」「必要となるスキル」を明確にすることで、そのような問題を回避する必要があります。

社員の学ぶ意欲を高めるために必要なのは、(1)環境を変える(2)仕事に必要なスキルを明確にする(3)健全な危機意識を持たせるという3点です。健全な危機意識を醸成させるには、4〜5年をめどに自身のキャリアを振り返り、将来のキャリアを検討する機会を設けることが有効です。同じ部署での滞留年数があまりにも長い場合には、個人としての知識やスキルの新陳代謝が起こりにくくなっています。異動のタイミングでこれまで蓄積したスキルを棚卸しすることで、自分の強みや弱みを把握することも有効でしょう。

日刊工業新聞 2023年10月13日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
プリンシパル 油布 顕史

関連サービス

DX時代のリスキリング

お問合せ