2023年秋にCatena-Xのサービス提供会社であるCofinity-Xが本格的に商業サービスを開始しました。このサービス開始を受け、2024年はいよいよ産業データ流通新時代の幕開けになると思われます。

そこで年明けに相応しく、インダストリアルデータスペースに関する全7回の連載コラムを開始します。シリーズ第1回目の今回は、欧州インダストリアルデータスペースの起源と変遷、取組みの狙いや対象とする戦略分野(産業領域)、そして代表的な枠組みであるGAIA-Xの特徴について解説を行い、その概要を掴んでもらいたいと思います。

1.欧州インダストリアルデータスペースの起源と変遷

欧州インダストリアルデータスペースは2011年にドイツが提唱したIndustry4.0 「第4次産業革命」が起源となります。まずIndustry4.0を契機に、欧州データ戦略と結び付いたIndustrial Data Space の取組みが生まれました。

その後、International Data Spaces と名称を変更し、データスペースの代表的な枠組みであるGAIA-Xが形作られました。この頃から欧州は米中のハイパースケーラーを強く意識し始め、今、取組みは欧州のみならず、ASEANといった欧州以外の地域への展開も睨んだ動きとなっています。起源となったIndustry 4.0は産学官が連携した取組みとして知られていますが、この流れは欧州インダストリアルデータスペースにも受け継がれています。

デジタルの潮流インダストリアルデータスペース_図表1

出典:「デジタル時代におけるグローバルサプライチェーン高度化研究会 第2回研究会(2022/8/24)」(経済産業省)を基にKPMG作成

2.欧州データ戦略の狙いと対象となる戦略分野(産業領域)

2020年2月、欧州委員会は、国際競争力とデータ主権を確保するデータの単一市場の創設を目指した「欧州データ戦略」を発表しました。これは、より多くのデータを経済や社会で利用できるようにするとともに、データを生成する企業や個人の権利を守るという、欧州のデータに対する基本的な考え方や姿勢に基づいています。戦略策定の背景には、コンシューマーデータをほぼ占有している米国の巨大IT企業や、国として大量のデータを保有する中国といった米中のハイパースケーラーに後れを取っていることへの強烈な危機感があるとされています。

デジタルの潮流インダストリアルデータスペース_図表2

出典:「A European strategy for data」(EUROPEAN COMMISSION)を基にKPMG作成

現在、この枠組みの対象となる産業領域は、工業(製造業)をはじめ、以下に示す13の領域に及んでいます。

デジタルの潮流インダストリアルデータスペース_図表3

出典:KPMG作成

3.GAIA-Xの3つの特徴

欧州データスペースの代表的な枠組みであるGAIA-Xには大きく3つの特徴があります。

(1)製品ライフサイクル上の幅広いデータが対象

これまで企業間のビジネスデータはEDI(Electronic Data Interchange)と呼ばれる仕組みでやり取りされ、対象データは主にサプライチェーン上の受発注データが中心でした。しかしGAIA-Xでは、あらゆるビジネスデータを業界共通の仕組みとして流通させることを想定しています。

(2)データはコネクタによる分散型の連携

構築されるデータスペースの形態が、これまでのデータセンターで管理する中央集権型ではなく、共通仕様のコネクタによる分散型となっています。分散型ではデータを集約する必要がなく、接続からデータ交換までが比較的容易になります。加えて、データ主権はデータオーナーが保持したままとすることが可能です。分散型とすることで、データ共有と企業や個人のデータ主権保護の両立を図っています。

(3)データ共有により欧州が重要視する社会課題への貢献

最後に、欧州が重要視する社会課題への貢献があります。紛争鉱物の撲滅やカーボンニュートラル化等を推し進めるうえで、データによる状態の可視化は非常に有効です。この可視化を通して社会課題の解決に大きく貢献することができます。一方で、定められた規制に対するデューデリジェンス(適正評価手続き)は、GAIA-X準拠のデータスペース上でしか実施しないという縛りを欧州は将来設けるとの懸念があります。欧州以外の企業が、欧州とのビジネスにおいてGAIA-X準拠のデータスペースへの参加を必須とされる可能性もあります。

<先行する欧州自動車業界>

欧州では自動車業界が先行していて、Catena-Xとして業界横断型のデータスペースがすでに構築されています。さらに2023年秋、Catena-Xへのオンボーディング(接続支援)やCatena-X上のデータを用いてカーボンフットプリントと呼ばれる二酸化炭素の排出履歴を算出できる各種アプリケーションを提供する専門企業であるCofinity-Xも始動しました。

4.日本に求められるデータ連携のグランドデザインと企業レベルの取組み

日本でも、2023年4月にウラノス・エコシステム と呼ばれる日本のデータスペース構築の取組みが政府より発表され、欧州バッテリー規制に日本の自動車業界が対応するためのガイドライン作成やデータ連携機能の実証実験の準備が進められています。ただ、現時点では欧州の取組みを後追いした形となっており、GAIA-Xに相当する産業データ連携のグランドデザインはまだ存在しません。日本としてのグランドデザイン策定が急がれるところです。

また、多くの日本企業ではデータプラットフォームを中心としたデータ利活用の取組みも十分とは言えません。このままでは業界横断型のデータスペースに対して、ただデータを提供するだけの対応になり、ごく一部の企業だけがデータ共有の利点を享受するに留まることになります。インダストリアルデータスペースを意識した企業内データプラットフォーム整備の加速が求められます。

次回以降は、各業界や企業レベルでの取組みに有効な、欧州で構築が進められている各業界別インダストリアルデータスペースについて詳しく解説していきます。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 山邊 次郎

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