本連載は、日本経済新聞(2023年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

Z世代の態度変容モデル

Z世代を商品・サービスの認知から興味・関心、購買へと「態度変容」させるには、その段階に応じたマーケティングが必要です。テレビやインターネットでターゲットとする顧客に広告を打つ「単方向型のマーケティング」と、顧客の反応にインセンティブの付与などを返すインタラクティブな「会話型マーケティング」の併用で効果を高めることができます。
購買行動の上流(認知・訴求)段階でのブランドメッセージの発信は、消費者の認知と関心の構築には有効です。その際には、ターゲティングとターゲットが所属するコミュニティを理解したうえで発信する必要があります。
下流(調査・行動・推奨)になると、単方向型のマーケティングだけでは態度変容は期待できません。
Z世代は、顧客体験(CX)の向上や、所属するコミュニティへのブランドの関わりを重視しています。消費者のコミュニティとの共同開発や、コミュニティに対するロイヤルティーを向上させるプログラムの提供など、コミュニティとの会話を通じたマーケティングが肝になってきます。

Z世代へのマーケティングの成功例に、消費者に直接販売するD2C(Direct to Consumer)化粧品ブランドの米グロッシアーがあります。
2014年にニューヨークで創業した同社はミレニアル世代やZ世代を中心に人気で、2019年にはユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)となりました。Instagramのフォロワー数は、2023年8月時点で280万人にのぼっています。

マーケティングで特徴的なのは、創業時に若い女性をターゲットに美の秘訣やノウハウをブログで発信してファンコミュニティを形成し、顧客のエンゲージメントを高める取組みを実施したことです。
従来型のアプローチでは、ターゲットとなる顧客を定めてニーズに応える商品やサービスを開発し、広告で認知を獲得していく方法が一般的でしたが、同社はファンコミュニティ作りを先行させることで顧客を獲得し、コミュニケーションを通じてニーズに応えました。著名人が朝のメイクなど身支度する様子を紹介する動画を配信するなど、ファンコミュニティの共感獲得に成功しています。CXの向上にも力を入れており、自身の画像をアップロードすると肌色に合う同社商品をレコメンドするアプリを提供するなど、オンラインでの利用のしやすさを追求しています。店舗では商品の試用だけでなく、ブランドの世界観を表現した装飾、限定アイテムを獲得できるクレーンゲーム、限定版のバッグの販売など、没入型の体験も提供しています。こうした体験はインスタ映えするため、顧客が推奨者としてSNSに投稿することにもつながっているといえます。
顧客のエンゲージメントを高めるオンラインとオフラインでのCXの設計は、今後ますます重要になってくることが予想されます。

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日経産業新聞 2023年9月25日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 岩田 理史

 

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