本連載は、2023年4月より日刊自動車新聞に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

カーボンニュートラル実現の限界とサーキュラーエコノミーへの移行

従来の経済モデルであるリニアエコノミーに代わる経済モデルとして、サーキュラーエコノミーが注目を集めています。リニアエコノミーは大量生産・大量消費・大量廃棄を前提とした経済の仕組みで、今限界を迎えています。

【新しい経済モデルとしてのサーキュラーエコノミー】

自動車業界におけるサーキュラーエコノミーへの変革_図表1

OECD(経済協力開発機構)によると、世界人口の増加に伴い、資源使用量は2060年には2017年の約2倍に増加すると見られています。しかし、現在の経済モデルでは、自然界で再生できる以上の資源を採掘しています。そのため、リニアエコノミーによって将来的には資源が枯渇し、ビジネスにも影響が及ぶと考えられます。
各国はカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に向けた政策を加速させています。しかしながら、再生可能エネルギーなどではGHG(温室効果ガス)排出量の55%の解決策にしかならず、サーキュラーエコノミーにシフトしなければ、残りの45%が取り残されてしまう可能性があると言われています

【リニアエコノミーの限界:GHG排出】

自動車業界におけるサーキュラーエコノミーへの変革_図表2

豊かさを維持しつつ資源依存を低減するためには、経済発展と資源消費および環境影響とをデカップリングしなければなりません。そのために1つの資源が長く使われ、資源当たりの便益を高める必要があります。
これが資源を高い価値の状態のまま使い続ける新しい経済のあり方であり、サーキュラーエコノミーが注目されている理由です。

サーキュラーエコノミーへの変革に向け、事業環境の変化が起こり始めています。自動車業界においては、希少資源の確保という目的で電池の活用が各規制とともに先行しています。電池は特に自動車において世界中で需要が増加中であり、電池ビジネスの持続可能性のためには、電池の資源循環が重要視されています。

欧州の電池規則では、再生材の最低含有率の設定とともに、原料別の回収率目標などが議論されています。欧州はこの規則を通して、電池のバリューチェーンを域内に保ち、回収された希少資源を再利用することを目標にしています。一部の自動車メーカーはすでに電池リサイクル企業に投資しており、電池の有効活用や確実な回収を促進するために、電池ビジネスをサービス化している企業もあります。

カーボンニュートラル実現のために、自動車業界におけるサーキュラーエコノミーへの移行は欠かせません。電動化のみの自動車産業のカーボンニュートラル実現には限界があります。資源の採掘や廃棄などに関わるGHG排出量の削減も重要です。完成車メーカーは、調達や製造を含めたサプライチェーン全体のGHG排出量を削減する必要があり、サプライヤーにもGHG削減への協力を求めています。そのため一部のサプライヤーはすでにサーキュラー型モデルを活用し、GHG排出量を削減しています。

欧州完成車メーカーのなかには、完成車や主要パーツのリマニュファクチャリング事業(リマン事業)を主事業へと昇華すべく、量産ラインをリマン専用のラインへと転換する事業者もあります。また、他産業にも目を向けてみると、たとえば飲料メーカーでは、100%水平リサイクルのペットボトル実現に取り組んでいます。スマートフォンビジネスでは、ユーザーによって修理可能なデバイスが支持を得始めています。

自動車産業では、中古車市場やパーツメーカーのリマン技術などのアセットがあります。一方で、サーキュラーエコノミーへとシフトするには品質やコスト面において大きな壁があることも確かです。だからこそ、サーキュラーエコノミーには設計のイノベーションやビジネスモデルのイノベーションが必要だと言われています。普通に考えて無理なことに取り組もうとしているのだから、イノベーションなのです。それこそ日本の自動車産業が数々の難局においても実現してきたことではないでしょうか。経済がサーキュラーエコノミーにシフトするまでに、日本の自動車産業が環境イノベーションの旗手となっていることを期待したいところです。

※「Financing the Circular Economy」(エレン・マッカーサー財団)

日刊自動車新聞 2023年8月7日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊自動車新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
アソシエイトパートナー 堀内 敬一
コンサルタント 渡部 友香菜

クルマ社会の新しい壁

お問合せ