本連載は、2023年4月より日刊自動車新聞に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

クルマのソフトウェア化というと、どのようなイメージを持たれるでしょうか?「車両により高度な技術が実装されること」「IT事業者に”乗っ取られる”こと」「メタバース(仮想空間)世界の移動手段になること」など、人により異なることと思われます。
本稿では、クルマのソフトウェア化を「都市の持続可能性を高める手段化」と定義して解説します。

クルマの付加価値とデジタルトランスフォーメーション(DX)

ソフトウェアによりクルマの付加価値は向上し続けています。さまざまなセンサーや車両制御系OS(基本ソフト)、情報系OSから構成され、自動運転機能がOTA(オーバー・ジ・エアー、無線通信)で提供されるなど、スマートフォンに見られるような構造にまで変化してきています。さらに、テレマティクス技術を活用して、「運行・稼働管理」や「クルマ快適・安心化機能」も提供されています。

”コトシフト”により、今後注目されるのは、「社会連携・最適化機能」です。これは、交通・物流・エネルギーなどの社会機能と、住民・観光客・企業などの体験価値を持続可能な形で成立するようにコントロールする機能のことを指します。つまり、地域DXとして取り組む目線が必要になり、また、DXにおいて活用できるデータという観点で考えた場合、自動車メーカーが優位性を生かせる領域は、マネタイズが難しくなっていくことも事実です。

一方で、すべてがガラリと変わるわけではありません。しかし、この変化を起点にさまざまな異業種プレーヤーが参入してくるので、自動車業界プレーヤーにとっては、”守り”としての打ち手が必要だと考えます。

地域DXにおける提供価値を事業として行っていくために必要なことは、「異業種との連携による市場形成戦略の構築」です。モビリティを起点に都市の持続可能性を高めるエコシステムについて、「何を」「誰と」行い、「どう稼ぐのか」を定め構築することが重要です。これは、従来の自動車業界プレーヤーが苦手としてきたことで、少しずつ進み始めてはいるものの、”総論OK”のレベルから踏み込めているケースはそう多くありません。なぜなら「提案」が求められる領域であるからです。

そうしたなか、電気自動車(EV)シフト、シェアリングシフトなどを起点に従来のパワーバランスが崩れ始めています。これからは、モビリティを起点としてエコシステム形成の方向性を踏まえたうえで、新たな”原資”を見定め、異業種との連携により市場を形成していく動きを取らなければ、立ち位置を築くのは難しいと言えます。

では、どのように「提案」を進めるべきなのでしょうか。ポイントは、自社の事業のみならず、モビリティ事業全体の収益構造を可視化し、事業成立要件を見定めることです。モビリティを起点に、異業種と連携しながらどのようなマネタイズポイントを創出できるか可視化し、損益分岐点を超えるための条件を定量化します。条件によっては、「皆で稼いで、皆で配分」する新たなビジネスモデルの構築も要件になるでしょう。

モビリティ領域では販売台数や台当たり収益性という判断軸とは異なる物差しで見ていく必要があります。では、何が事業成立要件か明確にできているでしょうか。こういった物差しに基づいて、KGI/KPIを設定しながら推進しているプレーヤーは自動車業界にはまだ少ないように思われます。

日刊自動車新聞 2023年7月3日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊自動車新聞社 の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
アソシエイトパートナー 宮崎 智也

クルマ社会の新しい壁

お問合せ