最新の調査結果にみる日本企業の気候関連情報開示状況

気候関連情報の開示の枠組みの開発や制度化に向けた流れが進んでいます。本稿では、KPMGが実施した企業報告に関する複数の調査を参照し、日本企業の気候関連情報開示の現状を考察します。

気候関連情報の開示の枠組みの開発や制度化に向けた流れが進んでいます。本稿では、KPMGが実施した企業報告に関する複数の調査を参照し、日本企業の気候関連情報開示の現状を考察します。

*この記事は、株式会社エネルギーレビューセンターの許諾を得て『月刊エネルギーレビュー6月号(2023年5月20日発刊)』の掲載記事を転載しています。無断での複写・転載はご遠慮ください。

1.はじめに - 情報の量は世界トップクラスの日本

気候関連情報の開示の枠組みの開発や制度化に向けた流れは、国内外で進んでいる。その動向については、本号の特集における先の記事が解説している。そこで本稿では、KPMG(監査、税務、アドバイザリーサービスを提供するプロフェッショナルファームのグローバルネットワーク)が実施した企業報告に関する複数の調査を参照し、日本企業の気候関連情報開示の現状を考察する。

結論からいえば、気候関連情報を開示する日本企業は多く、グローバルでもトップレベルといえる。開示する気候関連情報の量も増加の一途である。しかし、TCFD提言(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)に沿った11の開示項目に言及するにとどまり、気候変動対応を含む企業の成長投資に必要な資金の出し手である投資家の意思決定に資する情報を十分に提供するには至っていない現状が浮かび上がる。

その状況について、KPMGが実施したグローバルとの比較調査、および日本企業の企業報告に関する調査等を通じて分析する。

2.グローバルとの比較でみる日本企業の気候関連情報開示

2022年12月にTCFDが公表した「TCFD Overview」*1 によれば、TCFDへの賛同機関数は、日本が1,070機関と世界最多であり、2番目に多い英国の467機関、3番目の米国の440機関を大きく上回る。TCFD賛同企業は世界で約4,000社であり、実にその四分の一が日本の機関となっている。

この実態と整合するように、気候関連情報の開示、具体的にいえばTCFDの提言に沿った開示を試みる日本企業は、他国と比較してその割合が高いことが分かっている。

KPMGは、世界58の国・地域の売上高上位100社(合計5,800社)を対象に、2022年「KPMGグローバルサステナビリティ報告調査」*2 を実施した。そのなかで、TCFD提言に沿った報告を行う割合を国別に調査したところ、日本が最も高く94%であった。2021年1月よりロンドン証券取引所のプレミアム市場上場会社へのTCFD提言に基づく開示が義務化されている英国より8%高い結果となっている(図-1参照)。また、世界(調査対象国)全体の売上高の上位250社の平均である61%も大幅に上回っている。

図-1 TCFD提⾔に沿った報告を行う割合が高い国・地域トップ5(2022)

最新の調査結果にみる日本企業の気候関連情報開示状況-1

加えて、同調査によれば、CO2排出量削減目標を報告する割合も、世界の売上高上位250社の平均が80%であるのに対し、日本は95%と大きく上回っている(図-2参照)。

図-2 CO2排出量削減目標を報告する割合(2022)

最新の調査結果にみる日本企業の気候関連情報開示状況-2

日本では、先述の通りすでに多くの企業がTCFDへの賛同を表明しているなか、2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいて、東京証券取引所プライム市場上場企業には、TCFD提言または同等のフレームワークに則った報告が促された。これらの要因が影響し、日本において気候関連情報の開示を試みる企業は、世界と比較しても多い状況といえる。

3.国内の他業種との比較でみる日本のエネルギー業界の気候関連情報開示

気候関連情報を開示する企業の割合が、日本は世界と比較して多い状況であることは前項の通りである。本項では、日本のエネルギー業界の企業による気候関連情報開示の状況を、他業種との比較でみていくこととする。

KPMGは、2022年に公表した調査レポート「日本企業のTCFD提言に沿った情報提供の動向2021」*3 において、日経平均株価の構成銘柄225社(以下、「日経225銘柄」)が2021年に公表した有価証券報告書、統合報告書、サステナビリティ報告*4 において開示した気候関連情報の状況を業種別に比較している。

この調査では、2021年10月時点の日経225銘柄のうち、石油・石炭製品業、および電気・ガス業に含まれる企業7社を「エネルギー」セクターに分類した。セクター別に、TCFD提言に沿った情報の記載状況を調査したところ、エネルギーセクターにおける記載の割合は100%となっており、同セクターに属する全7社が、調査対象とした3つの報告媒体のいずれかにおいてTCFD提言に沿った情報を記載していた(図-3参照)。

図-3 TCFD提言に沿った記載状況(全媒体、セクター別)(2021)

最新の調査結果にみる日本企業の気候関連情報開示状況-3

出典:KPMGジャパン「日本企業のTCFD 提言に沿った情報提供の動向2021」

また、開示内容の充実度を比較するため、TCFDが推奨する11の開示項目について言及している割合をセクター別に調査したところ、エネルギーセクターは平均言及率が74%となっており、最も高かった金融セクターの75%に次いで2番目に高い結果となった(図-4参照)。これは、11ある開示項目ごとの言及率をもとに、11項目全体の平均言及率として算出した値である。これをブレイクダウンし、11の開示項目ごとの言及率でみてみると、エネルギーセクターは、すべての項目で平均言及率が50%を超えていることが分かる(表-1)。エネルギーセクターを除くすべてのセクターにおいて平均言及率が50%を下回り、言及率が最も高い金融セクターにおいてすら28%であった「気候変動シナリオに基づく戦略のレジリエンス」の記載が57%となっており、他のセクターにおいて言及率の低いそれ以外の項目においても50%を上回っている。このことから、11項目全体の平均言及率では、わずかな差で金融セクターを下回ったものの、エネルギーセクターのTCFD提言に沿った開示の取組みは、他業種と比較しても進んでいるといえる。

図-4 TCFD 推奨開示11 項目の平均言及率(全媒体、セクター別)(2021)

最新の調査結果にみる日本企業の気候関連情報開示状況-4

出典:KPMG ジャパン「日本企業のTCFD 提言に沿った情報提供の動向2021」

表-1 TCFD推奨開示11項目別の言及率(全媒体、セクター別)(2021)

最新の調査結果にみる日本企業の気候関連情報開示状況-5

出典:KPMG ジャパン「日本企業のTCFD 提言に沿った情報提供の動向2021」

エネルギーセクターは、非金融セクターのうち、TCFDが分類する気候変動リスクの財務的影響を最も受けやすい4セクターの1つにあげられている。同セクターに属する企業は、当然ながら、いち早くTCFD提言を活用し、取り組みを進め、開示を含めて推進していると考えられ、本調査にもその実態が反映されている。

4.最新の調査結果にみる日本企業の気候関連情報開示の課題

前項までで、世界的にも、気候関連情報開示に取り組む日本企業の数は多く、なかでもエネルギーセクター企業は、他業界に先んじて開示に取り組んでいるという実態を確認した。本項では、KPMGの最新の調査結果から、日本企業の気候関連情報開示の有用性に関する課題の検証を試みたい。

4-1.情報量の拡充は進展

KPMGジャパンは、2014年から日本企業が発行する統合報告書の記載内容について、毎年調査を実施しており、2019年からは、調査対象企業を日経225銘柄に絞り、統合報告書に加えて有価証券報告書を調査の対象に加えている。さらに、2021年からは、サステナビリティ報告も調査の対象に加え、「日本の企業報告に関する調査」として公表している。最新の調査となる2022年の調査*5 (2023年4月公表)では、気候関連情報開示の状況について、複数の観点から調査を行った。

まずは、TCFD提言に沿った情報の開示状況の推移である。2022年は、統合報告書、有価証券報告書、サステナビリティ報告のいずれの媒体においても、TCFD提言に沿った開示を行う企業が前年から増加した。企業ホームページの「サステナビリティ」等のページで公表されている情報を対象に含むサステナビリティ報告では、実に98%の日経225銘柄企業が気候関連情報を開示しているという結果である(図-5参照)。

図-5 TCFD提言に沿った開示の状況(2021-2022)

最新の調査結果にみる日本企業の気候関連情報開示状況-5

出典:KPMG ジャパン「日本の企業報告に関する調査2022」

TCFD提言は、気候関連情報を財務インパクトの評価に資するよう年次の財務報告で示すことを提唱している。日本においては有価証券報告書がそれに該当するが、有価証券報告書における気候関連情報の開示は、調査対象の3つの媒体の中では最も少なかった。しかし、前年からの増加率は35%ポイント増と最も大きく、統合報告書(11%ポイント増)やサステナビリティ報告(19%増)を上回った。

これは先述の通り、2021年のコーポレートガバナンス・コードの改訂により、東京証券取引所のプライム市場上場企業に対し、TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実が求められた影響が大きいと思われる。

次に、TCFDが推奨する11の開示項目別の言及率を確認する。ここでは、図-5に示した通り、TCFD提言に沿った開示が最も多かったサステナビリティ報告における結果を取り上げる。

TCFDの提言では1つの項目にまとめられている温室効果ガス(GHG)排出量(SCOPE1、2およびSCOPE3)を、本調査ではSCOPE1、2とSCOPE3に分け、計12項目として調査を行った。その結果、割合がもっとも高かったのは、「GHG排出量(SCOPE1、2の実績)」で、言及率は92%と高水準であった(図-6参照)。さらに、注目すべきは、言及率が最も低かった「気候関連リスクと機会の評価・識別および管理のプロセスとリスク管理体制全体と統合状況」でも60%にのぼる点である。開示がGHG排出量の実績や関連するリスクと機会に偏るのではなく、すべての項目で言及率が60%超となったことは、日本企業の気候関連情報開示の量の面での進展を表す結果であるといえる。

図-6  TCFD推奨開示11項目別の言及率(サステナビリティ報告)(2022)

最新の調査結果にみる日本企業の気候関連情報開示状況-6

『月刊エネルギーレビュー6月号』掲載時の図-6の社数に誤植があったため、本ページ掲載の図にて修正しております。

出典:KPMG ジャパン「日本の企業報告に関する調査2022」


また、2021年も同様の項目別の言及率の調査を行っており(図-7参照)、その調査対象は日経225銘柄のうちTCFD賛同企業184社に絞ったものであったが、言及率は最も高い項目で68%、低いものは24%にとどまっていた。わずか1年で大きく進展したことが分かる。

図-7  TCFD推奨開示11項目別の言及率(サステナビリティ報告)(2021)

最新の調査結果にみる日本企業の気候関連情報開示状況-7

出典:KPMG ジャパン「日本の企業報告に関する調査2021」の調査結果をもとに筆者加工

4-2. 気候変動による財務的影響の判断に資する具体的な指標の不足

気候関連情報の開示が、量の面で年々進展している状況は確認したが、質の面ではどうか。2つの側面から課題が浮かび上がる。1つは、気候関連情報の利用者のうち、特に株主や投資家が企業の気候変動による財務的影響を見積もり、意思決定において活用しうる具体的な指標の開示が、現状ではまだ限定的だという点である。

TCFDは、2021年に付属書「気候関連財務情報開示タスクフォースの提言の実施(2021年版)」*6 および「指標、目標、移行計画に関するガイダンス」*7 を公表している。そのなかで、「指標と目標」に関して、GHG排出量を含む産業横断的な7つの指標カテゴリと指標例を示している。

それらは、企業が気候関連リスクと機会やその影響を測定するために有用な代理指標であり、情報利用者が財務的影響を見積もり、意思決定を行うための大切なインプット情報であるといえる。それらの開示の状況を調査した結果、7つの指標カテゴリのうち、SCOPE1、2のGHG排出量は、図-6でも示した通り、すでに92%の企業が開示しているが、その他の指標が開示されている割合は、高い項目でも15%、低いものは4%にとどまっている(図-8参照)。

図-8  TCFD産業横断的気候関連指標カテゴリの開示状況(サステナビリティ報告)(2022)

最新の調査結果にみる日本企業の気候関連情報開示状況-9

出典:KPMG ジャパン「日本の企業報告に関する調査2022」の調査結果をもとに筆者加工

TCFDは、SCOPE1とSCOPE2のGHG排出量は、すべての組織において、気候変動の影響が将来の企業価値に及ぼすインパクトがマテリアルか否かに関わらず開示すべきだと述べている。その一方、SCOPE3のGHG排出量とGHG排出量以外の指標カテゴリは、影響がマテリアルである場合に開示することを推奨している。これは、TCFDが提唱する11の開示項目のうち、「ガバナンス」と「リスク管理」に係る5項目はすべての企業に開示が期待され、「戦略」および「指標と目標」に係る6項目は、気候変動の企業価値への影響がマテリアルな場合に開示が期待されているのと同様のアプローチである。しかし、図-6で示した通り、すでに全11項目について、6割以上の企業が情報を開示し、気候変動の影響がマテリアルだと判断している実態がみえている。その状況と比較すると、7つの指標があくまで例示であることを差し引いても、現段階における開示はまだ限定的だといえる。

4-3.GHG排出量の集計範囲と財務情報の連結範囲の不一致

もう1つの課題は、気候関連情報のうち、具体的な目標や実績を示す指標たるGHG排出量の集計範囲が、財務情報の連結範囲とは必ずしも一致していないという点である。

TCFDが2021年に公表した先述の付属書において、GHG排出量の計算方法として準拠すべきと明示のあるGHGプロトコルでは、開示されるGHG排出量の集計範囲は、財務情報の連結範囲と大きく相違がないものとすることが推奨されている。

そこで、SCOPE1、2、3のそれぞれについて、その集計範囲を調査したところ、財務情報の連結範囲と一致していたのは、SCOPE1および2で37%、SCOPE3は24%という結果であった(図-9参照)。国内外の子会社等から、財務情報の連結範囲と同範でGHG排出量のデータを収集するには、そのためのプロセスやITシステムの整備などが必要となる。そのため、現時点では、いずれのスコープにおいても、集計範囲を徐々に拡大している途上段階にあると考えられる。

図-9  GHG排出量のバウンダリー(サステナビリティ報告)(2022)

最新の調査結果にみる日本企業の気候関連情報開示状況-10

出典:KPMG ジャパン「日本の企業報告に関する調査2022」の調査結果をもとに筆者加工

投資家の意思決定に資する情報を提供するとともに、その比較可能性に寄与するという観点から、今後はGHG排出量などの気候関連の主要な指標については、財務諸表の連結範囲と同じ範囲で情報を開示し、企業の実態を正しく伝えていくことが期待される。

5.おわりに - 企業としての説明責任をいかに果たすか

ここまでに紹介した調査の結果からは、日本企業における気候関連情報の開示の実態は、情報量の面で拡充が進んでいる一方で、その財務的な影響について、投資家等の情報の利用者が検討するに資する情報の質の面で、まだ発展途上の段階にあることが分かる。

気候変動のマクロ的な影響を見通したうえで、企業の将来的な財務インパクトを具体的に検討し、開示するのは困難な作業である。しかし、期待されるのは正確な未来予測ではなく、現時点で何が最も確からしいと判断し、気候変動という地球規模の課題解決に貢献しながら、企業の持続的な成長の実現に向けていかに取り組んでいるかを伝えることではないだろうか。

開示そのものが目的ではないことを心にとめながらも、こうした開示の質を拡充する取り組みが、予測の困難な状況下で、企業としての説明責任を果たすことにつながり、課題解決に必要となる資金を呼び込むことにもつながると考える。

参考文献

*1Task Force on Climate-related Financial Disclosures Overview”、 TCFD、 2022

*2KPMGグローバルサステナビリティ報告調査 2022” KPMGジャパン、 2022

*3日本企業のTCFD提言に沿った情報提供の動向 2021”、 KPMGジャパン、 2022

*4 本調査において、「サステナビリティ報告」は、統合報告書以外のサステナビリティ報告書、および企業ホームページの「サステナビリティ」等の名称のページ上で公表しているサステナビリティ情報を含む

*5日本の企業報告に関する調査 2022”、 KPMGジャパン、 2023

*6付属書「気候関連財務情報開示タスクフォースの提言の実施(2021年版)」”、 TCFD、 2021

*7指標、目標、移行計画に関するガイダンス”、 TCFD、 2021

執筆者

KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン
シニアマネジャー 橋本 純佳

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