スタートアップ創出の鍵は「リスクマネーの供給」と「人材の流動化」 ―日本経済を活性化するスタートアップエコシステム

今回は、長くベンチャー投資事業に携わり、スタートアップを支援してきた伊藤忠テクノロジーベンチャーズ代表取締役社長/一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会代表理事(会長)の中野慎三氏にお話をうかがいます。

伊藤忠テクノロジーベンチャーズ代表取締役社長/一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会代表理事(会長)の中野慎三氏にお話をうかがいます。

政府は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付け、官民をあげてスタートアップの創出・育成に取り組むことを宣言しました。日本企業が成長し、経済を活性化させていくために、今、新しい時代に伸びていく力のあるスタートアップが求められています。スタートアップが優秀な人材と資金を集め、事業を強く大きくするために、何が必要か。世界で戦っていくために重要になるのは、どんなことか。今回は、長くベンチャー投資事業に携わり、スタートアップを支援してきた伊藤忠テクノロジーベンチャーズ代表取締役社長/一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会代表理事(会長)の中野慎三氏にお話をうかがいます。

インタビュアー=
阿部 博 あずさ監査法人 パートナー

対談時には感染対策を十分に行い、写真撮影時のみマスクを外しています。
所属・役職は、2022年10月時点のものです。

浮沈を繰り返しながら拡大してきたベンチャー投資

阿部 :この春、岸田総理は「2022年はスタートアップ創出元年」と表明しました。社会としてこれからスタートアップをどのように支援してくのか。伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(以下、「ITV」という)の代表として、また一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会(以下、「JVCA」という)のトップとしてのご意見をうかがいます。まず、スタートアップ創出元年についてです。これをどう捉えていらっしゃいますか。

対談

中野 慎三 氏
伊藤忠テクノロジーベンチャーズ代表取締役社長/
一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会代表理事(会長)

1989年伊藤忠商事入社。2000年に伊藤忠テクノロジーベンチャーズを立ち上げ、取締役&パートナーとしてベンチャー企業への投資およびハンズオン支援に従事。2006年ITOCHU Technology Inc.にてSVP&COO就任。2010年伊藤忠商事にて情報通信戦略室長就任。2011年伊藤忠テクノロジーベンチャーズにて取締役&パートナー就任。2012年伊藤忠商事にて情報産業ビジネス部長就任。 2015年4月伊藤忠テクノロジーベンチャーズにて代表取締役社長就任、現在に至る。

中野 もともとスタートアップ支援は2012年にはじまったアベノミクスの「第三の矢」の成長戦略の1つで、政府はスタートアップに経済の立直しを期待していました。岸田政権はそれを引き継ぎ、大きな政策として新たに提言したという認識です。

阿部 スタートアップ元年の表明には、世間から大きな反響がありました。スタートアップ業界でのインパクトはいかがでしたでしょうか。

中野 インパクトは大きいです。さまざまな省庁で、スタートアップを創出するためのあらゆる政策、規制緩和が並行して動いており、官民一体となってスタートアップを盛り上げていく体制ができつつあります。掛け声だけでなく、具体的な策がどんどん出てきているところです。

阿部 20年ほど前までは、スタートアップは「ベンチャー企業」と呼ばれていました。当時のベンチャー企業の背景や現状についてお聞かせください。

中野 日本でのベンチャーブームは、これまでに何回かありました。最初のブームは1999年頃からです。マザーズやナスダックジャパン(現在のJASDAQ)といった新興市場が創設され、ベンチャー企業やベンチャーキャピタル(以下、「VC」という)が出始めました。いよいよ日本にもベンチャーエコシステムができるとしてブームになったわけです。ITVもこの波に乗り、2000年に創業しました。
 
ところが、2000年の夏頃に米国でITバブルが崩壊。この影響が日本にも波及し、ベンチャーブームは一度シュリンクします。その後、ライブドアなどが一時脚光を浴びて、ブームが再燃。そんななか、2006年にライブドアショックが起きます。マザーズ市場もライブドアショックの影響で落ち込み、さらに2008年のリーマンショックが追い討ちをかけました。そこからはどん底状態です。当時は、スタートアップの年間の資金調達額が数百億円程度と、1,000億円にも届かない年が続いたように記憶しています。(図表1参照)

図表1 株価伸び率比較

図表1 株価伸び率比較

その潮目を変えたのがアベノミクスです。安倍元総理が途中で退任されたので、政策は未完のまま終わってしまいましたが、それでもアベノミクスの影響は大きいものがありました。世界的にも投資資金が余っていたこともあり、スタートアップに向けたリスクマネーが日本にも入ってきたのです。今、資金調達額は約7,800億で、1兆円がみえてきています1。日本に新興市場ができてから23年。この間、浮き沈みはありましたが、今はまた登っていっている最中という感じですね。

阿部 一盛一衰あり、長い目で見ると伸びているということですね。

中野 そうですね。特にこの直近5年の伸びが大きいです。日本ではこれまで、リスクマネーの供給元は多くの場合事業会社でした。あとは政府系ファンドと金融機関で、生保・損保、年金などのいわゆる機関投資家からのお金はほとんど流れてきませんでした。外国人投資家もほぼいないという状況だったのです。

 それが、ここ5年でがらりと変わりました。外国人投資家が日本のグロースステージに入ってきたのが大きいです。また、年金など機関投資家も少しずつ入りはじめ、ついに今年、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が参入しました。これは政府のアベノミクス、スタートアップ創出元年のおかげだと思います。ようやく日本のVCが、年金基金にアセットクラスとして認められた。これは昨今一番大きなトピックと言えるでしょう。リスクマネーの出し手のバラエティが増えたことで、今後のリスクマネー供給の拡大には期待が持てます。

阿部 年金基金からの投資のポイントは、やはり長期投資という点でしょうか。

中野 そうですね。一番のポイントは、サイズが大きいこと。それから、景気に左右された投資をやらないことです。事業会社の場合、不景気になると長期投資や先行投資からカットされるので、非常に不安定です。一方、年金基金等は運用のプロですから、多少は景気に左右されるものの、長期で投資します。そこは非常に大きいですね。

日本がユニコーンを創出していくために求められる、グロースステージへの投資

阿部 時価総額が1,000億円を超えるような会社はユニコーンと呼ばれます。ユニコーンは、日本にもいくつかありますが、世界を見渡せば少ないように感じます。今後、日本が数多くのユニコーンを創出していくには何が必要だとお考えですか。

阿部博

阿部 博 あずさ監査法人 パートナー

有限責任 あずさ監査法人に入社して以来、主に金融商品取引法監査・会社法監査をはじめ、株式公開支援業務、デューデリジェンス業務などに従事。 現在は監査業務の他に、企業成長支援本部 インキュベーション部長として大学発ベンチャーへのサポートや、オープンイノベーションのイベントを推進している。また、KPMGジャパンの活動としてプライベントエンタープライズセクター スタートアップ統轄を担当し、スタートアップの発掘・育成支援に従事している。

中野 出口を大型化することです。ユニコーンは基本的に未上場時点で時価総額1,000億を超える会社ですから、上場時には2,000~3,000億を狙います。未上場時点でそこまで成長させなければならないので、当然資金が必要になります。たとえば、従来なら500億で上場させていたような会社を1,000億まで大きくしてから上場させるとします。そうすると、500億から1,000億まで成長する間の資金供給をどうするか、誰がそのリスクマネーを供給するのかが課題になります。

  この課題を解決するために必要なのは、グロースステージに対する投資家を増やすことです。米国が利上げする前までは、普段上場株を運用しているような海外投資家がグロースステージに入ってきていて、ちょっとしたバブル状態でした2。しかし、利上げによって残念ながら彼らは手を引いてしまった。とはいえ、今こそ日本は新たにグロースステージができてくるというタイミングですから、グロースステージファンドを作ったり、グロースステージを主戦場としている海外の投資家を呼び込むなどして、プレーヤーを増やしていく必要があります。(図表2参照)

図表2 ユニコーン企業の国際比較

図表2 ユニコーン企業の国際比較

阿部 シードステージやアーリーステージに対する投資では、4大学ファンド以外にも、民間のVCも増えてきました。今度はグロースステージに特化したようなファンドを作るということですが、このステージでの知見のある投資家は、まだ少ないように思えます。

中野 グロースステージまで成長している企業は、すでに会社としてきちんと機能しています。VCの知見はポテンシャルの高い起業家の目利きをし、ゼロから会社の体を成すまでを支えるものです。ガバナンスを効かせ、組織として動いて売上をあげ、利益を出していく。そこまでもっていくのが、基本的なVCの役割です。

  一方、グロースステージに求められるのはそこから先を伸ばすことです。今までのVCの知見の延長線上ではあるものの、無から有を生み出すステージではなく、事業を拡大させるステージですので新規投資家がグロースステージに入ることは、決して無理ではありません。ただ、いい案件を見つけるにはそれなりの目利きをしなければいけないし、ネットワークを持っていないといけない。そういう意味では、さきほど話したエコシステムにいかに入り込めるかということだと思います。

阿部 なるほど。そこには日本の事業会社も入っていけるのでしょうか。

中野 もちろん入っていけると思います。

阿部 しかし、やはりまずは、経験や知見のある海外投資家が入ってきたほうがいいような気がします。

中野 それなりのサイズ感を持ったファンドが必要だということだけで、それが日本のプレーヤーであるか、海外のプレーヤーであるかはあまり関係ありません。ただ、その会社がグローバルに成長する可能性があるのであれば、たとえば米国のファンドに入ってもらって米国展開を手伝ってもらうといったことは期待できます。そういう意味では海外投資家のほうがいいのかもしれません。

阿部 それは、最初からグローバル展開を考えていない日本のスタートアップであれば、海外投資家は特に必要ないということでしょうか。

中野 そうかもしれませんが、もし、国内事業のみで時価総額数千億円の規模の企業を作ろうとするなら、対象市場の大きな事業で相当ドミナントなポジションを確保しなければなりません。そうでなければ事業のグローバル展開を図って面を取りにいかないとその大きさになるのは難しいと思います。いずれにせよグロースステージには大きな資金が必要ですので、国内、海外問わずリスクマネーの供給を増やす必要があります。

世界で戦っていくためには、他にマネできない独自技術やアイデアが必要

阿部 日本にもユニコーン企業はありますが、彼らが世界に伍して戦えるかは別問題だと感じています。

中野 そうですね。SaaSをはじめとするアプリケーションソフトウェアなどは、米国に完全に負けてしまっていますから。しかし、日本企業がまったく海外で戦えないかというと、もちろんそんなことはありません。領域によりますが、日本のスタートアップでも、ユニークなものが市場に刺されば、世界で戦っていけるでしょう。

阿部 KPMGでは、アジア太平洋のユニコーンや新興巨大企業を「Emerging Giants in Asia Pacific」3にまとめて公表しています。これによると、中国やインドではかなり大きな動きがあることがわかります。たとえば不動産テックは、日本では最近やっと出てきましたが、インドではすでにかなり成長しています。このように、日本にはまだないものが海外で育っている状況で、世界に伍して戦える企業が出てくる領域としてはどこが考えられますか。

対談

中野 それこそマーケットによると思います。たとえばSaaSならば、不動産なり医療なり、その領域におけるさまざまな「負」に対するソリューションがほとんどです。でも、その「負」が日本独特の問題だったりすると、グローバル展開できないですよね。しかも、その「負」に関してはグローバルではすでに他のプレーヤーがたくさんいて、彼らは言葉や文化の違いで参入障壁があるために日本には入ってこられないだけだったとしたら、そういうところの隙間を埋めているだけになってしまう。日本は自国のマーケットがそれなりに大きいので、そういうのが多くなってしまうのです。

 でも、グローバルから見れば、グローバルな「負」に対していち早くソリューションを提供できるというのが第一です。そして、グローバル共通の「負」に対しては、ほとんどお金も人も充実した米国や中国が先んじて取り組んでいます。これが現状です。

阿部 確かに中国などは日本と比べて規制の壁が低く、実証はしやすいですよね。

中野 はい。中国は今、ブロック経済化してきてしまっていますが、米国やインドを見渡せば、日本に先んじてお金と人も集めて、より大型な研究開発を進めています。ですから「今さら追いかけても……」となってしまう。しかし、だからこそ、そこに伍していくためにはやはりお金と人を投入していかなければならない。そうでなければとても勝てません。

 そうなると、今後はIP(知的財産権)を持っていることがいっそう重要になってきます。ディープテック、あるいは特許に守られるような、他ではコピーできない独自技術やアイデアが非常に重要になる。やろうと思えば誰でもできるけれども、それを世界に先んじて事業化することができ、それが競争優位性となる。もしくは、競合が入ってこられないような参入障壁がある。そういうサービスや製品でないと、海外では難しいと思います。ただ、そこは人によって意見が分かれるところですね。

阿部 個人的には、日本はモノを作る精緻な技術やIPがあり、たとえばヘルスケアなどには強みがあるので、そういうところに人材が揃えば、大きく成長でき、海外でもやっていけるのではないかと思っています。

中野 そうですね。私は経済のメインストリームをスタートアップに牽引してもらうことをミッションにしているのですが、そのためには、人材の質をいっそう高める必要があると思っています。それこそ博士号を持っているような人に主役になってほしい。それで成功例が増えていけば、博士を目指す人も増えるのではないかと思っています4

阿部 まだあまりないかもしれませんが、博士号を取った人たちがCEOやCTOとして活躍し、次世代が続いていく。そういう好循環が生まれていってほしいですね。

中野 はい。大手メーカーに入って安定した生活を、というのももちろんあると思いますが、「自分でやる」という道も1つの選択肢として提供できるといいですよね。そこにリスクマネーがついて、というのが次のメインストリームになっていってほしいと思います。

大企業を巻き込みながら、少しずつ進んできた人材の流動化

阿部 東京都がデジタルテクノロジーの実装とスタートアップの集積を推進する「Digital Innovation City協議会」を設立したことからも、中野さんが今お話されたことが大きく動きはじめているように思えます。中野さんからみて、足りないピースを埋めていくような動きというのは、着々と進んでいると思いますか。

中野 はい。政府、行政には一生懸命頑張っていただいています。スタートアップの創出、しかも大規模な影響力のあるスタートアップ、いわゆるメガベンチャーを作るにはお金と人の両輪が重要となります。ただ、これは「鶏が先か、卵が先か」でして。お金があればいい人材が集まってくるし、いい人材がいればお金も集まります。

 シリコンバレーは完全にそれがうまく回っていて、「シリコンバレー」という文化を作り上げています。しかも、シリコンバレーのエコシステムは米国のなかに閉じずに、グローバルです。世界中のお金と人材が集まってくる。みんな外から入ってきているので、外の人間に優しいですし、外の文化を柔軟に取り入れていきます。いろいろな文化を持った人が混じりあって、今のエコシステムができているのです。

 ひるがえって日本を見ると、まず人材がグローバルではありません。それ以前に、日本人のスタートアップへの人材流入がいまだ途上だという気がします。日本の優秀な人は、有名大学を出たら一流企業に就職し、あまり転職しない。最近は少し変わりつつありますが、この流れは根強いものがあります。

  ですから、そこから変えていかないといけないと思います。選択肢の1つに起業があってもいいよね、と。ただ、新卒ですぐ起業というのも賛否両論あります。だから、いったん企業に就職して社会を見て、社会人としての基礎知識を得たうえで起業するのもいいと思っています。しかしこういうやり方は、大企業は嫌がるでしょうね。何のために採用しているのか、となってしまいますから。
 
  とはいえ、現実的に世の中はそういう動きになりつつあります。ですから、企業としても新卒一括採用ではなく中途採用も積極的に行うようにすれば、選択肢を増やせます。たとえば、チャレンジするために退社した人が戻ってこられるようにする。起業経験者を優遇して採用する。そういう人材の流動があってもいい。そうすれば、スタートアップ側にも、大企業にいた優秀な人材が増えていくでしょう。5
 
  米国を見てみると、特にシリコンバレーには、元スタートアップの大企業が多いです。Google社にしろ、Meta社にしろ、もともとはスタートアップでした。自分たちがスタートアップなので、人材の流動性がすごく高い。Google社にいたと思ったら辞めて起業し、気がついたら今度は他のIT企業に移っていたというように、どんどん流動していくのです。日本も、まずはそういう人材の流動が必要だと思います。その次がグローバル化ですね。

阿部 人材の流動を起こすには、日本企業は何を変えていく必要があるでしょうか。

中野 大企業の人事制度を変えることが大事ですね。それが実現できなければ、人材の流動化は難しいと思います。これは、なぜ日本企業でM&Aが少ないのか、にもつながる課題だと思います。米国のM&Aを見ていると、買う側に元スタートアップが多く、新しいプロダクトやサービスを自社で立ち上げず、その技術やノウハウを持っている他の会社を買ってくるイメージがあります。買収し、その後は子会社化したり、マージしたりといろいろありますが、いずれにしても、そういう「人材ごと買う」を許容する人材戦略、人事評価制度がないとできません。また、大企業とスタートアップの文化の違いをどう吸収するのかというハードルもあると思います。

阿部 人事制度が変わり、スタートアップと大企業の人材が流動的に入れ替わっていくようになれば、M&Aで「人材ごと買う」こともできるようになっていく、と。

中野 そうですね。我々がITVを立ち上げた当時に比べると、今は人材の数も質も圧倒的に向上しました。あの頃を一合目だとすると、大企業がスタートアップの人材を欲しがり、スタートアップも人材を揃えられるようになってきた今は二合目か三合目くらいですね。

   昔は起業家というとちょっと怪しいイメージで、博士号を持った人が起業するなんていうケースはあまりありませんでした。それが、今では医者や弁護士が起業することは珍しくないですし、チーム全員が博士という会社もあります。昔と比べて事業のコアが良質なものに変わってきたのです。(図表3参照)

図表3 博士号取得者の状況

図表3 博士号取得者の状況

 こうなった理由は、やはりお金が入ってきたからでしょう。スタートアップの資金調達総額が1,000億もなかった時代から、今や7,800億、目指せ1兆となってきた。資金が入ってきたことで、今のスタートアップの給与基準は相当上がってきています。特にテクノロジーの技術者は人手不足なこともあり、大手企業にいるよりもスタートアップでCTOをやったほうが給与がいいくらいです。加えて、ストックオプションがありますから、上場時にそれなりの収入が見込めます。そういうこともあって、大手企業からスタートアップに人材が流れてきていますし、新卒でスタートアップに入る人も増えています。いい流れになってきていると思いますね。

10年後、日本のスタートアップはどうあるべきか

阿部 スタートアップは、これまでも社会を変えるような事業を展開してきました。新しい人が出てきて、新しいものが生まれてこなければ、社会が大きく変わっていくことも、日本の経済の再生もないような気がします。そういうなかで、中野さんからみて10年後の社会というのはどうなっていると思いますか。あるいは、どうあるべきでしょうか。

中野 10年後には、東京証券取引所上場企業上位の、少なくとも三分の一くらいはスタートアップになっていてほしいですね。

阿部 そうですね。昔、スタートアップは一般的にネガティブに捉えられがちでした。今では優秀な学生がスタートアップに入社して、何年かして次に移るというように、若い人ほどダイナミックに動いていますね。

中野 そうですね。今、たとえば東大卒の学生の就職先のなかには元スタートアップの大企業がいくつも入っています。大学が旗を振ったり、小学校からの学校教育でもアントレプレナーシップが注目されるようになってきました。元スタートアップで今では大手企業に成長した女性経営者は、自社の社員に「起業しろ」と言っているくらいです。重要なのはこういう流れです。大企業を含む多くの会社にこの動きが波及するといいと思っています。

阿部 まだスタートアップは危険だとか、明日がわからないと思う人もいるかもしれません。でも、大企業の中堅くらいの方がスタートアップに入るだけでずいぶん違ってきますよね。スタートアップを経験した人ほど就職の求人が多くなるくらい、人材の流動化が進むといいですね。

中野 はい。残念ながらまだ大きな流れにはなっていませんが、大企業がスタートアップ経験者をきちんと評価してくれるようになるといいと思います。外で起業した経験なんて、失敗しようが成功しようが、経験そのものが大きなことです。そういう人材を大企業が使いこなせるようになると、だいぶ違ってくると思います。

阿部 最後に、ベンチャーキャピタリストの観点から、今後に期待されることを一言お願いします。

中野 世界に伍していける、あるいは日本でドミナントになるような大型ベンチャーを作るには、それなりの規模の資金と人材を集める必要があります。エコシステム全体を底上げするためにも、ITVは大きく成長する可能性のある会社への投資を増やしていきたいと思っています。

対談

阿部 本日はありがとうございました。