日本企業のTCFD提言に沿った情報提供の動向2021

2022年4月に公表した「日本の企業報告に関する調査2021」の中から、TCFD提言に基づく開示に焦点をあて、セクター別の分析等を加えた本冊子「日本企業のTCFD提言に沿った情報提供の動向2021」を取りまとめました。

「日本企業のTCFD提言に沿った情報提供の動向2021」は、「日本の企業報告に関する調査2021」からTCFD提言に基づく開示に焦点をあて、セクター別の分析等を解説しています。

調査の概要

KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパンは、2012年にその前身組織である統合報告アドバイザリーグループを組成して以来、企業の自発的な取組みである統合報告書の発行を、企業と投資家との対話促進を通じて価値向上に貢献する取組みと捉え、2014年から日本企業の統合報告書に関する動向を継続して調査してきました。

今般、コーポレートガバナンス・コード改訂などの動きもあり、日本企業のTCFD賛同表明数は増加の一途をたどっています。そこで、2022年4月に公表した「日本の企業報告に関する調査2021」の中から、TCFD提言に基づく開示に焦点をあて、セクター別の分析等を加えた本冊子「日本企業のTCFD提言に沿った情報提供の動向2021」を取りまとめました。「日本の企業報告に関する調査2021」および「日本の企業報告の取組みに関する意識調査2022」と併用いただき、企業報告の取組みに関する現状理解の一助となることを目指しています。

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Key Findings

1.情報提供の深度はセクターによって異なる

TCFD推奨開示11項目の平均言及率は58%で、金融の75%が最も高く、運輸の44%が最も低い結果となり、気候変動関連の情報提供の深度がセクターによって異なることがわかりました。

気候変動は、セクターを問わず、長期の時間軸であればあるほど、広範な企業に影響します。そのため、気候変動がもたらすリスクと機会に関する明瞭で、比較可能かつ一貫した情報の開示が、金融市場の安定化に必要不可欠です。気候関連財務情報の開示にあたっては、まず初めに、開示の必要性を認識し、TCFD最終報告書の提言について、きちんと理解することが肝心です。その上で、気候関連リスクと機会の影響を評価し、その対応を戦略へと落とし込み、モニタリングする仕組みや具体的なアクションへ実装していく必要があります。

2.有価証券報告書における言及は限定的

有価証券報告書での言及率は、昨年からの向上はあるものの13%であり、言及が最も多かった「識別した気候関連リスクと機会」の言及率も8%に留まりました。有価証券報告書に含めるべきかについて、企業は慎重に検討している状況にあるようです。

現在、気候変動リスクに関する開示の義務付けについては、日本においても金融審議会での検討が進んでいます。制度化されると、法令順守のために、開示要請項目をチェックリスト化し、ひとつずつ消し込むような形式的な対応に陥りがちです。何のための気候関連財務情報の開示なのか、開示目的を今一度認識し、法令順守志向の開示から脱却する必要があると考えます。

3.企業の見解や取組みの実態を示す情報が不足している

「気候変動シナリオに基づく戦略のレジリエンス」は32%、「リスク管理体制全体との統合状況」は42%の言及率となりました。

TCFD提言は気候関連に関わる情報開示に大きな進展をもたらし、そのフレームワークに基づく報告は、企業と投資家のエンゲージメントを高めるためのツールの1つです。しかし、推奨開示11項目に沿って、関連する情報をただ並べるのでは、エンゲージメントの向上にはつながりません。企業の価値創造のために気候変動がどのような影響を及ぼすのか、その影響に対して企業はどのように備え、自社のレジリエンスを高めているのかについて、取締役会を含む経営層の見解と取組みの実態を示す必要があります。そのような情報提供こそが、TCFD提言の背景にある金融安定化へとつながると考えます。

執筆者

KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン

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