本連載は、日経産業新聞(2021年10月~11月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

ESG投資エコシステムのプレーヤー

ESG(環境・社会・企業統治)投資の拡大の裏には情報開示や実施方法などに関するさまざまな組織や団体によるエコシステムの発展があります。多様なESGのテーマのなかでも脱炭素に関する情報は、新たな知見や国際的な取決めの変更などによって変わりやすく、各企業はそのことを前提に戦略や目標、行動を設定していくことが不可欠となります。
世界経済フォーラムによると、ESG投資エコシステムのプレーヤーは枠組み設定組織や投資家の協働組織など9種に大別され、それを構成する50を超える団体が相互の依存関係にあります。ここでは特に脱炭素で注目すべきプレーヤーについて解説します。

まず把握すべきは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)です。主要国の金融当局などが主導し2015年に設立した組織で、企業が気候変動のリスクを捉えて財務上の影響を開示するための枠組みを提示しています。この枠組みは各国の証券取引所なども支持しており、上場企業に求める事実上の世界ルールになっています。
具体的には、気候変動の影響を洪水などによる直接的な被害「物理リスク」と脱炭素進展による事業への影響「移行リスク」の2面から捕捉し、その対応を(1)ガバナンス(企業統治)(2)戦略(3)リスク管理(4)指標と目標の4項目で開示する内容となっています。
東京証券取引所などが2021年6月に改訂した上場企業に求める「コーポレートガバナンス・コード」でもこの枠組みを重要視しています。2022年4月の東証再編で最上位となる「プライム市場」では「TCFD等に準拠した気候変動への対応に関する開示」を求めており、IT企業などでも新たに脱炭素に取り組む動きが広がっているほか、事業会社では脱炭素経営を加速させる動きがみられます。

次に注目すべきは2000年発足の非政府組織の英CDPです。企業活動に伴う水や大気、森林など環境への影響について、収集・計測・評価を行っています。2020年には世界時価総額の50%以上、9,600社を超える企業がCDPを通じて開示するなど環境情報開示の世界標準となっています。
企業の気候変動対策を評価した2020年版のCDP報告書では、日本企業が53社も最高評価「Aリスト」に格付けされました。米国の55社に次ぎ第2位で、3位の英国(20社)を引き離しました。日本の取組みの遅れが指摘されるケースもありますが、CDPの評価を見る限り必ずしも国際的に劣っているわけではないと言えるでしょう。

企業の脱炭素への目標設定に関する組織ではSBTiがあります。CDPや世界自然保護基金(WWF)、米国の環境シンクタンクの世界資源研究所(WRI)などによる共同の組織で、パリ協定に整合する企業の温暖化ガス削減目標を設定・承認するものです。
SBTiの基準は何度も引き上げられ、2021年7月15日の改訂では大幅な削減が求められる「1.5度シナリオ」に基づく目標しか受け付けなくなりました。ほかのシナリオで承認された企業は約5年の移行期間内の再承認が必要となります。
ここで挙げた主要なプレーヤーだけでも毎年のように内容を更新しています。これらを活用する企業はエコシステムを俯瞰し、動向を継続的に注視することで自社の計画・行動に機動的に反映することが求められます。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 三宅 恵満生

日経産業新聞 2021年11月9日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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