相互協議並びに事前確認(APA)に関するガイダンスと指針を含む「歳入手続細則」の改正案について 

概要

2013年11月22日、米国内国歳入庁(IRS)は相互協議並びに事前確認(APA)に関するガイダンスと指針を含む「歳入手続細則」の改正案を公表しました(Notice 2013-78及びNotice 2013-79)。2012年にIRSは相互協議手続き及びAPAプログラムの連携強化や申請/審査手続きの明瞭性・効率性を高める目的で、Advance Pricing and Mutual Agreement Program(APMAプログラム)を設立しました。今回の歳入手続細則の改正案についてはAPMAプログラム設立趣旨に沿っており、現行の「歳入手続細則 2006-9」から大幅に変更される予定です。本改正案はAPMAプログラムの明確化・効率化を図ることを目的としており、納税者にとって歓迎されるものであると考えられ、米国租税条約締結国間で発生する国際課税紛争に対して納税者と積極的に協力し解決していこうとするAPMAプログラムの基本姿勢が強く現れています。その背景としては、移転価格に関する諸問題が年々増加しており、IRSとして相互協議・APA等の国際課税紛争解決メカニズムの強化に注力していることが考えられます。

 

相互協議・APA対象案件の拡大

今回の改正においては、現行の「歳入手続細則 2006-9」では対象外となっていた事案に関しても積極的に対応していく姿勢を見せています。例えば、重要な改正項目の一つとして、納税者が実施した自主調整(例:自主調整の結果、直接的もしくは間接的に二重課税が生じてしまうケース)についても相互協議手続きによって解決を図ることが可能となる模様です(ただし、事後的タックスプランニングや脱税と見なされる場合には救済されません)。更に、納税者からの一般的な相互協議に関する問い合わせに対しても今後は対応していく予定です。具体的な問い合わせの内容には、納税者の抱える問題が相互協議の対象となる得る問題なのかの判定、国外における更正処分に対して外国税額控除を取る要件を満たしているかの判定などが含まれます(なお、国外における更正処分に対して外国税額控除を取る際には、既存の制度上、救済手続きを全て実行していることが要件となります)。

 

APMAプログラムの透明性の向上

今回の改正案では、納税者にはAPA申請時に十分な情報提供を求めるなど、様々な方法で納税者及び税務当局間の透明性の向上を図っています。例えばAPAと相互協議のいずれにおいても、事前相談をIRSと行う場合には事実関係や取引内容の概要を纏めた事前相談メモランダム(Prefiling memorandum)の提出が原則必要となりました(事案の内容や調整金額で例外あり)。APAにおいては、Bilateral APAやMultilateral APAの申請が可能な状況においてUnilateral APAを申請する場合や、簡略型APA(Abbreviated APA)を申請する場合には事前相談メモランダムの提出が必須となります。相互協議においては、以下の場合には事前相談メモランダムの提出が必須となります。

 

  •  海外の税務当局が課した所得調整額の合計が10 million USDを超える場合
  •  納税者が実施した自主調整
  •  租税条約の特典制限条項の免除申請を行う場合
  •  税務調査が行われる前に納税者自ら二重課税が生じたと考えた場合(例:源泉税)

 

以下に該当する場合には、APAと相互協議のいずれの場合においても事前相談メモランダムの提出が必須となります。

 

  •  無形資産に関するライセンス供与または移転、あるいは無形資産の形成に関連する取引
  •  グローバルトレーディングに関連する取引
  •  米国税制上の法人とならない支店、パススルー事業体、ハイブリッド事業体、米国税法上課税対象とはみなされない事業体に関連する取引

 

また、今回の改正案において、相互協議の申立てやAPA申請時に求められる資料のリストが提示され、幾つかの資料が追加されました。ただし、これらの追加資料はこれまでもAPAや相互協議の審査過程において納税者がAPMAプログラムに提出していた資料であり、今回の改正は申請時に提出することでAPAや相互協議の初期段階の審査効率を向上させる意図があります。更に、(APMAプログラムが作成するテンプレートに基づいた)APA契約書のドラフトもAPA申請時に添付資料として提出することになります。今回の改正に伴い、納税者にとってはAPAや相互協議の申請時に前倒しで資料の提出が必要となることで負担が増加し手続きが複雑化するものの、申請後の審査手続きはこれまで以上に集中的に実施されることで、結果として相互協議やAPAプロセス全体にかかる期間が短縮することが見込まれております。

 

加えて、IRSは租税条約相手国とのAPAや相互協議における政府間協議においても透明性の向上を図る模様です。具体的には、納税者が相互協議の申立てを行わない取引に関してもAPMAプログラムが租税条約相手国の税務当局と相互協議を行う可能性や、相互協議の対象範囲の拡大を要求する可能性がある旨が改正案では言及されています。

 

今回の改正案では、APAの経過事業年度への遡及適用についても新たなガイダンスが含まれています。現行の「歳入手続細則 2006-9」では、APAが執行される前であれば何時でも遡及適用の申請を行うことができましたが、改正案では納税者はAPA申請時、もしくはAPA申請から3ヶ月以内にAPAの遡及適用の申請を行うことになります。更に、APMAプログラム自身がAPAの遡及適用を納税者のオープンタックスイヤー(更正等の期間制限が経過していない事業年度)に適用する権利を有する事になります。従って、今後は遡及適用を申請しない場合には納税者がAPMAプログラムに対してAPAの遡及適用を行うことが適切ではない理由を説明する必要があり、APMAプログラムが同意しない場合には、APMAプログラムはAPA申請の棄却もしくは審査の停止・取消を行うことができるようになります。また、APA審査中において、APA対象事業年度あるいは遡及適用対象事業年度の時効を延長する契約(一般的、もしくは特定の項目に限定する場合もある)を締結する必要があります。

 

Bilateral APA及びMultilateral APAの申請期限も改正されました。納税者が相手国の税務当局へのAPAの申請を先立って行った場合、IRSへの提出期限はそこから60日後となります。申請期限改正に伴い、APMAプログラムと相手国の税務当局はAPAの申請をほぼ同時に受理する事となり、相互協議まで同様の時間軸で進めることができると考えられています。また、納税者は、相手国の税務当局へ提出した資料や分析は他方の税務当局へも提出することを義務付けられていますが、本改正案においてAPMAプログラムは納税者の負担の軽減を図るために、当局に提出した情報を、両税務当局間で共有するための効率的な方法(例:提出資料に索引を付す)の導入を検討しているようです。更に、IRSは、APAまたは相互協議の審査過程において、納税者からAPMAプログラム並びに相手国の税務当局に対して同時にプレゼンテーションを行うように要求することができるようになります。

 

APA及び相互協議プロセスにおける更なる効率化と連携強化

今回の改正案は、相互協議、促進相互協議(ACAP)、APA、並びに簡略型APAにおける納税者及びIRSの手続き上の負担を軽減し効率化を図っています。例えば、対象年度を通して重要な事実関係及び問題点に変更が無い場合、納税者は以下の3つの方法によって税務上の不確実性を排除する事が可能となります。

 

(1) 税務調整が生じている事業年度に関して、相互協議の申立てを行う。

(2) まだ税務調整は生じていないが、今後生じる可能性が高い経過事業年度に関して、促進相互協議を採用し相互協議の結果を適用する。

(3) 更に将来年度に関して、相互協議の結果を簡略型APAを申請することで適用する。

 

納税者は上記の手続きを活用することで、複雑かつ複数年度に及ぶ移転価格課税問題に対して効率的に対処することが可能となります。本改正案は、これまで人員不足に悩まされ、効率化を切望していた租税条約相手国の税務当局にとっても喜ばしいことだと考えられます。加え、相互協議及びAPAの更なる効率化を資する目的で、相互協議における還付請求の時効中断手続き(Protective Claim)等の諸通知書、APAにおける一定の情報提供ダイアグラム(Covered Issue Diagram)、特定の財務情報の提出においては、テンプレートが活用される見通しです。

 

簡略型APA:更新APA及びその他の場合

本改正案では、既述のとおり、更新APA及び小規模なAPAにおいても、簡略型APAの申請ができるようになります。簡略型APAでは、申請に必要な資料が通常のAPAの申請に比べて少ないため、納税者とAPMAプログラム双方の負担軽減につながると考えられています。特に、更新APAの場合、APMAプログラムも既に納税者に係る事実関係や経済状況等について一定の理解があるため、APA初期段階においては、通常のAPAほどの資料は要さない模様です。APAを申請する納税者は、既に過去にAPAを複数回更新している事も多く、今後APAの更新の際に簡略型APAが認められることは、APAプロセスを大幅に改善させるものと考えられています。このようなAPA手続きの簡略化が、今後、相手税務当局にも導入されることで、APAプロセス全体の効率化や納税者の負担軽減が図られることが望まれます。

 

ペナルティ・プロテクションとしてのAPA申請

今回の改正にあたり、APA申請自体が、APA年度の(Reg. Section 1.6662-6(d)(2)(iii)に規定される)同時文書化要件を満たすように考慮されています(ただし、情報の更新や補完は必要)。これまでもAPAが審査されている期間についても移転価格文書を作成しなければならなかった納税者の負担を軽減すべきとの強い要望がありましたが、今回の改正案はこの要望を受け入れるものとなっています。

 

施行日に関して

アメリカ合衆国財務省財務省とIRSは、改正案に対するパブリックコメントを受け付けており、締め切りは2014年3月10日とされています。パブリックコメントが締め切られた後、IRSは歳入手続細則の改正案を最終化し、内国歳入庁週報に記載される日以降に受理されるAPAや相互協議において新しい歳入手続細則が適用されます。また、納税者とAPMAプログラムが合意した場合に限り、施行日時点で申請中の案件についても、新たな歳入手続細則が適用されます。なお、新たな歳入手続細則の施行前にAPAや相互協議の申請を行う予定の納税者においても、今回の改正案の方針や手続きの変更点について把握しておくことで、APAや相互協議の申請を効率的かつ戦略的に進めることができるようになります。

 

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連絡先

仲 知威

マネージング ディレクター

エコノミック アンド バリュエーション サービス

tnaka@kpmg.com

 

岩城 成紀

マネージャー

エコノミック アンド バリュエーション サービス

siwaki@kpmg.com

Issue 1, 2014