新日米租税条約改正議定書 -第二部:議定書批准による源泉税免除まで利払いを繰り延べることによる米国税務リスクについて 

Jnet 2013 年第1号では、2013年1月24日、日米両国政府により署名された日米租税条約の改正議定書における「外国(法)人不動産投資税法(FIRPTA)」の取扱いについて取り上げました1

 

今回の改正議定書のなかで注目すべき改正点としては、金融機関以外に対して支払われる利子に対しての米国源泉税の免除があげられます2。現行の2003条約の条項では、原則として銀行、証券会社、保険会社以外への利払いについては10%の源泉税が課されてきました。

 

改定議定書は両日本国政府と米国政府が国会の承認を得て批准書の交換をするまで効力が生じません。米国においては、上院が2013年中に議定書を承認する可能性は低いであろうというのが一般的な観測です。

 

議定書が国会の承認を得て批准書の交換がされた場合には、議定書にある源泉税の条項(利息に対する源泉を含む)は、議定書が有効になる日の3ヵ月後の日の属する月の初日以後(実行日)に支払われるか、支払われたものとして扱われる利払いに対して効力を生じます3。例えば、改正議定書がある年の1月1日に有効となる場合、その年の4月1日以降に支払われ、又は支払われたものとして扱われる利払いに対して源泉税がかからなくなるということになります。

 

今回の日米租税条約の改正に伴う利子に対する源泉税免除を鑑み、日米の関係会社間において金銭の貸借取引を行っている多国籍企業は改正議定書による新たな源泉税率が効力を生じるまで利払いを遅らせることも視野に入れているのではないかと思われます。今回は、日米関係会社間の借入金に対する利子の支払を延期することに関しての日米税法上の潜在的な問題点を以下に解説します。

 

米国法人が日本の関連会社に対して支払う利子

米国の関係会社が日本企業に対する借入金に係る米国源泉の利払いを議定書が効力を生ずるまで遅らせ、議定書通り0%源泉税の適用することが可能かどうかは、具体的な事実関係によります。

 

上述の通り、改正議定書は議会の承認を得た後、実行日以後に "支払われるか支払われたものとして扱われる" 額に対して効力を生じます。利子が2003年条約かそれとも改正議定書に基づいて米国側より支払われるか、支払われたものとして扱われるかは米国の税法によって判断されます4

 

米国の国内法では、外国人に対し支払うfixed or determinable annual or periodic income(通称FDAP) と定義されている定期定額所得が源泉税の対象となります5。米国税法上は、納税者によって実際に受け取られた、あるいは受け取られたとみなされるときに課税されるという現金主義の原理6 を適用した場合に、受益者の所得に含まれる場合に支払がされたとみなされます7

 

米国の税法と改正議定書によると、利子が議定書の効力が生じるまで納税者の口座に支払われていない、又は支払われたものとして扱われていない場合、0%源泉税の資格があるということになります。しかし借入契約によっては、利子が実際の支払日の前に受け取られたとみなされる可能性もあります8。所得は実際に、または、受け取られたとみなされた課税年度に含まれることになっています。所得は、納税者の口座に入金処理された、または納税者のために保管された、あるいは別の方法でいつでも引き出し可能、あるいは引き出す意図があればその課税年度に引き出せたであろうとみなされ、受け取られたとみなされます9。例えば、借入契約に支払利子は指定期日ごとと記述されている場合(例:四半期払)、貸手が借手に支払いを遅らせるよう指示しても、貸手は利子の支払を受領したと解釈的にみなされ、結果的に源泉税負担の引き金となりえます。

 

仮に利子の支払いに関する指定期日が借入契約に明記されている場合、利いの期日を含め、当該借入契約の条件変更を検討した方がいいかもしれません。条件変更を行い、新規の借入契約を締結した場合は利払いに関する指定期日を設けないようにすることも可能です。一般的に借入契約の変更は、事実や状況等に照らして法律的権利または義務の変更の程度が経済的に重要であるなら米国税務上の重大な条件変更に相当します10。例えば、新契約の下、利子額の変更11または支払予定期日の延期12は重大な条件変更としてみなされるでしょう。米国税法上の重大な条件変更が起こった場合は、旧契約から新契約へ移行する際に税務上損益を認識しなければならない可能性があります13

 

借入契約に利子の支払期日が定められていない、または支払期日を設けないよう条件変更することにより、利子の支払いを延期し、したがって議定書のもと0%源泉税の資格を得ることが可能になった場合でも、米国企業は日本への支払利子を延期したことによる他の二次的な影響についても考慮しなければなりません。例えば、源泉税の観点から実際利子が支払われたとみなされるまで、Internal Revenue Code (IRC)267条により未払利子の控除が繰り延べられるかもしれません14。IRC267条は、この一般的なマッチングルールが租税条約上源泉税が免税になっている額にはあてはまらないという例外規定を設けています。しかし支払利子はこの規定からは明白に除外されています15。結果として、もし米国企業が日本にある系列会社への支払利子を延期すれば、利子が実際に支払われる年まで利子費用の控除も繰り延べるよう求めています。

 

さらに、IRC163(J) 条は納税者が課税年度に過剰な支払利子がある場合の損金算入額を制限しています。もし議定書が効力を生じるまでアメリカ企業が日本関連会社への支払利子を延期すれば、二年分か何年か分の支払利子が同一課税年度に申告される可能性があります。IRC163(J) 条では米国子会社の支払利子の損金算入の制限額を判断するうえで、利子は未払計上された年ではなく、支払われた年に算入します16。例えば、もし議定書が2014年に効力を生じ、米国子会社が2013年に未払い計上した利子の支払いを議定書が効力を生じる2014年まで延期した場合、2014年に支払われるその他の利子も含めて、2013年の当該未払利息は2014年に払われた、または、2014年に未払計上されたと見なされます。2014年に関しては通常より倍の利息が計上されるため、米国子会社には2014年に超過利子額が発生する状況になるかもしれません。しかしながら、2013年の利息費用が2014年に支払延期した分減ったため、2013年から2014年に掛けての超過限度枠の繰越額が2014年17の超過利子額と相殺できると考えられます。従いまして、米国子会社の立場からはIRC163(J)の実質的な影響はないと考えられます。

 

日本企業が米国関連会社に対して支払う利子

日本の関係会社が米国企業に対して有する借入金の日本源泉支払利息において、議定書が効力を生じるまで支払利息を延期することで日本の源泉税率の減少を得ることができるかどうかは日本の税法上の問題ですので、ここでは日本の税法上の取り扱いは論じません。しかし、2003年条約では日本と米国での源泉税条項に対する効力発生日が異なっていました18。米国では効力発生日の後に支払われる、又は貨記される額に対し2003年条約を適用した一方、日本では効力発生日に受け取る予定の額に2003年条約を適用しました19。つまり、米国は現金主義を適用し、日本は発生主義を適用したことになります。反対に今回の議定書は両国に異なる効力日を生じさせていません。代わりに、新源泉税率の適用を効力発生日以後に支払われるか貨記される額に適用するよう要求しています。両国が2003年条約より異なる効力日を生じさせることを計画したか、議定書がその差異を削除するため修正されたのかは定かではありません。

 

支払利子の延期が日本でも可能だとすれば、議定書が効力を生じた後の貸し手である米国企業側にはどのような影響があるでしょうか。まず、発生主義を適用している米国企業は支払日に関係なく未収利息を米国税法上の課税所得に含めなければなりません20。未収利息は米国企業の国外源泉所得となり得ますが、以下の二つの理由により、アメリカ企業は利子所得に対するアメリカ税を相殺する外国税額控除が利用できない可能性があります。一つ目の理由としては、日本の税法上支払いが実際に起こるまで源泉徴収義務が発生しないとすれば、未収利息が米国で算入された時、日本で支払った、または未払い計上された外国税額が存在しないという点が挙げられます。二つ目の理由は、支払いが実際にされたとき、仮に議定書が効力後に支払がされたら徴収される源泉税がないということが挙げあれらます。

 

日本子会社の所得が米国税法上も影響する場合(例えば日本子会社が被支配外国法人(CFC)として扱われた場合21)、米国親会社が発生主義のもと利子所得を課税所得に含めていると仮定の下、日本子会社の支払利子は所得と利益の計算上は控除されると思われます22

 

 

1. 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約を改正する議定書(2013年1月24日)(議定書)。

 

2. 議定書第4条

 

3. 議定書第15条第二節参照。

 

4. アナウンスメント2004-60, 2004-2 C.B. 43参照(2003年条約の実行日におけるガイダンス)

 

5. 財務省規則Treas. Reg §1.1441-1(b)(1) 参照。内国歳入法IRC§ 881 (defining fixed or determinable annual or periodic income earned by a corporation)参照。

 

6. 財務省規則Treas. Reg. §1.1441-2(e)(1)参照。

 

7. 財務省規則Treas. Reg. §1.446-1(c)(1)(i) 参照。

 

8. 財務省規則Treas. Reg. §1.451-1(a) 参照。

 

9. 財務省規則Treas. Reg. §1.451-2(a) 参照。

 

10. 財務省規則Treas. Reg. §1.1001-3(e)(1)参照。

 

11. 財務省規則Treas. Reg. §1.1001-3(e)(2) 参照。

 

12. 財務省規則Treas. Reg. §1.1001-3(e)(3) 参照。

 

13. 財務省規則Treas. Reg. §1.1001-3(a)(1) 参照。

 

14. 財務省規則Treas. Reg. §1.267(a)-3(b)(1) 参照。

 

15. 財務省規則Treas. Reg. §1.267(a)-3(c)(2) 参照。

 

16. 提案規則Prop. Reg. §1.163(j)-7(b)(2) 参照。

 

17. 内国歳入法IRC §163(j)(2)(B)(ii)では、納税者は超過支払利子額を相殺するため超過制限額を翌3年繰り越せる。

 

18. 2003年条約 Art 30参照。アナウンスメント 2004-60, 2004-2 C.B. 43参照。

 

19. 2003年条約 Art 30 §2(a) 参照。

 

20. 財務省規則Treas. Reg. §1.451-1(a) 参照。

 

21. 内国歳入法IRC §957(a) 参照。

 

22. 財務省規則Treas. Reg. §1.964-1(a)、内国歳入法IRC §267(a)(2) 参照。内国歳入法IRC §267(a)(3)(実際に支払われるまで利子の控除を繰り延べ)は外国法人に対して支払われた場合のみ適用することに留意。