在米日本企業を狙い打ちにする未請求資産調査 ~ デラウェア州「新自主開示プログラム」の締切迫る ~ 

「未請求資産(unclaimed property)」というのは多くの日本人にとって耳慣れない言葉ですが、米国の各州政府は、この制度を駆使して逼迫する州財政の財源確保を目論んでいます。実際、州政府から成功報酬ベースで委託された民間業者が同様の制度を持たない日本や韓国系の企業を狙い撃ちして非常にアグレッシブな調査を行っており、多額の供出金を請求されるケースが多発しています。本稿では、未請求資産制度へのコンプライアンスについて注意を喚起するとともに、多くの在米日本企業にとってリスクが高いデラウェア州で新たに実施されている自主開示プログラムについて解説します。

 

はじめに

在米日本企業A社のコントローラーである貴方は、ある日、自分の会社のバランスシートの明細をチェックしていて次の点に気がつきました。

 

  • 3年以上前に辞めた従業員に振り出した給与の小切手が換金されていない。
  • 2年前に販売した商品券が換金されていない。
  • ある得意先に対する売掛金の残高がマイナスになったまま、数年間放置されている。
  • 現在は取引を行っていない顧客からの保証金が返還されていない。

 

経理部長である貴方としては、こうした訳の判らないゴミはさっさと処理してバランス・シートを掃除したい思いに駆られます。処理方法にこだわる必要もないでしょう。全部合わせても大した金額にはならないので、外部監査人も問題にすることはないはずです。早速、各項目を消しこんで、相手勘定は「雑収入」にしておくように、部下に指示しました。

 

これは、よくありがちな光景ではないでしょうか?ただし、未請求資産法上は、立派な不法行為なのです。すなわち、これらのバランスシート上の貸方残高(クレジット・バランス)は、本来誰かがA社に対して保有している債権ですから、これをA社が収入計上して消してしまうのは、他人の持ち物を断りなく取り上げることになり、立派なネコババ行為であるという考え方です。

 

では、未請求資産法に準拠した正しい処理方法とは、どの様なものなのでしょうか?正解は、これらのクレジット・バランスを消し込む際の相手勘定を「雑収入」ではなく、「現金」とすることです。すなわち、これらを本来の所有者に返却できないのであれば、州政府に「未請求資産」として申告し、現金で供出しなければならないのです。

 

「未請求資産」とは?

この様に、「未請求資産」制度とは、一言で言えば、所有者が不明であったり、何らかの理由で所有者に返還できない資産を州政府に供出することを義務づける制度です。この制度の起源は中世の英国にあり、「持ち主が不明な資産は王様のものであるから、下々の者が勝手に私物化してはいけない」という考え方に基づくものであると言われています。日本には現在のところ同様の制度は存在していませんが、銀行の休眠口座の残高を国に拠出させて、震災からの復興等に有効活用しようという論議はあります。

 

未請求資産制度は、現在全米50州とワシントンDCで導入・施行されています。各州政府は、管轄下の未請求資産を企業等に供出させ、後に所有者からの申し出があった場合には、返還することになります。ただし、実際に所有者が名乗り出るケースは比較的少なく、また後述の通り実際には所有者が存在しない未請求資産を見なしで供出させるケースもあることから、実質的には州政府の財源の一部となっているのが現状です。

 

ちなみに、各州が供出を受けて保管している未請求資産を検索するウェブサイト1があり、自分の氏名と居住地州を入力すれば、各州当局が保管している未請求資産のうち、該当する可能性のあるものが表示されます。中には、亡くなったお金持ちの親戚の名前を入力すると、とてつもない金額の銀行口座等の未請求資産が見つかった等という話もあるようです。ただし、州政府から返還を受けるのは、簡単ではないという話も聞かれます。

 

所有者に返還できない資産は、州法に基づく「法定休眠期間(prescribed dormancy period)」経過後に「未請求資産」になります。法定休眠期間は、対象となる資産と管轄州によって異なります。例えば、現金化されていない給与の小切手は、発行後の未換金期間がニューヨーク州では3年、カリフォルニア州では1年を経過した時点で未請求資産となり、州政府に供出する必要が生じます。最近の傾向としては、未請求資産の供出を促進し、歳入増を図るために、多くの州で法定休眠期間が短縮されています。

 

どの州の管轄か?

次に、未請求資産がある場合に、どの州に供出すべきかという点ですが、「未請求資産」は、税金ではありませんので、会社がどの州で税金を申告すべきかという税法上の規定とは関係なく、未請求資産法独自の規定で州政府の管轄が決定されます。1965年の連邦最高裁判所の判例2によれば、未請求資産を管理する権限を持つ州は、次の優先順位によることになります。

 

  • 第1優先:資産の所有者の最後に判明している住所がある州
  • 第2優先:資産の保管者である会社の設立州もしくは本店所在地州

 

また、会社の設立州が未請求資産を引き受けない場合には、当該資産を創出する取引が発生した州が管轄を有すると規定する州法もありますが、連邦最高裁の判例に基づく連邦法の規定と相反するため、裁判等では認められていません。

 

ここで第2優先順位を持つ州に「会社の設立州」が含まれていることに着目して下さい。会社法上や税法上の理由3から、在米日本企業を含め、米国の企業の多くはデラウェア州で設立されています。このため、未請求資産の管轄がデラウェア州となるケースは非常に多く、同州政府は、民間業者に成功報酬ベースで委託して未請求資産の調査・回収を全米各地で積極的に推進しています。実際、デラウェア州政府は、年間4億ドル以上の未請求資産を回収しており、これは州政府にとって3番目に大きな歳入源となっています4。全米では、現在約320億ドルの未請求資産が州政府によって管理されており5、うちニューヨーク州が120億ドル、カリフォルニア州が60億ドルを占めています。

 

未請求資産調査のリスクと問題点

未請求資産法へのコンプライアンス上、最も頭の痛い問題は、ほとんどの州の規定上、時効の成立がないことです。法人税や個人所得税の時効は、申告書を提出してから特定の年数(例えば、連邦法人税の場合は原則として3年)が経過すると成立しますが、未請求資産については、デラウェア州を含む多くの州で、報告書の提出の有無に拘らず1981年まで遡って供出を求めることができます。

 

ただし、多くの企業では、法人税の時効等を考慮して7年程度6で帳簿書類を廃棄してしまっていることが多く、それ以前の期間について未請求資産の有無の立証を求められても手段がないケースがほとんどです。特に株式の取得により会社を買収している場合には、買収前の期間の未請求資産に関する責任は引き継ぐ一方で、当時の資料が入手できないこともよくあります。

 

各州政府や調査を委託された民間業者は、立証が不可能であることを見越した上で、1981年以降の未請求資産の有無について調査を実施してきます。州によっては、遡及期間を10年程度に限定しているケースもありますが、資料が廃棄されているため未請求資産がなかったことを立証できない期間については、未請求資産の供出漏れの発生率に基づき、見なしで未請求資産の供出を求められます。見なしで供出を余儀なくされた資産は、実際に本来の持ち主が現れることはないため、実質的に州政府の歳入となります。一部の民間業者は複数の州の委託を受けており、複数の州政府の代理人として調査を実施しています。

 

一部の州政府や民間業者は、未請求資産に関するルールが存在しない日本や韓国系の会社を狙い撃ちにする傾向があります。例えば、最近では、リベート・クーポンを発行していた日系や韓国系家電メーカーが軒並み未請求資産調査のターゲットになっています。調査により多額の未請求資産が発覚すると、本来の債権を有していた取引先との関係が悪化したり、場合によってはマスコミ報道によって企業イメージへの影響が出るケースもあります。

 

2010年の米国の大企業55社へのアンケート7では、未請求資産の調査の実態について、次の通りの結果が出ています。

 

質問

Yesと回答した企業

調査対応に10人以上の人員を要したか?

53%

調査対象期間は20年以上であったか?

32%

成功報酬ベースの民間業者による調査であったか?

64%

供出漏れの確率に基づく見なし認定で供出を強いられたか?

71%

 

実際の未請求資産調査

調査対象期間が長くなると、調査自体に数年を要することもあり、内外の対応コストも嵩みます。実際の未請求資産調査では、多くの場合、1981年まで遡って次の資料の提出を要求されます。

 

  • 組織図、様式851(連邦法人税の連結納税申告書に添付する関連会社リスト)、様式1120(連邦法人税申告書)、試算表、勘定項目一覧表、財務諸表。
  • 未請求資産に関連することが疑われる勘定項目(仮受金、雑収入等)の総勘定元帳明細。
  • バンク・ステートメント、銀行残高調整表、未換金小切手のリスト、廃棄済小切手のリスト。
  • 売掛金の明細と年齢調べ。

 

会計担当者へのインタビューでは、問題点を十分に理解していない職員が不用意な回答をしないように注意が必要ですなことは言うまでもありませんが、未請求資産調査においては、未請求資産ではないかと疑われるあらゆるものが俎上に上げられ、会社側が的確に反証できない限り、未請求資産であると認定されてしまいます。会社側に未請求資産に関する十分な知識がないと見るや、法規定上のグレーゾーンにある様なものまで未請求資産であると主張するケースもあります。こうしたことから、未請求資産調査への対応にあたっては、十分な経験と知識を持った外部のアドバイザーを起用するケースが多くなっています。

 

ペナルティーと利息

調査の結果、未請求資産の供出が確定すると、それに加えてペナルティーや利息が賦課される可能性があります。1995年に制定された統一未請求資産法(連邦法)に基づくガイドラインは、次の通りとなっています。

 

  • 利息:年利12パーセント。
  • 未請求資産報告書の提出漏れに対するペナルティー:一日あたり200ドル(最高5,000ドル)。
  • 未請求資産報告書の故意による未提出に対するペナルティー:一日あたり1,000ドル(最高25,000ドル)
  • 不正確な未請求資産報告書の提出に対するペナルティー:一日あたり1,000ドル(最高25,000ドル)プラス供出漏れ資産の25パーセント

 

実際の各州の利息とペナルティーに関する規定は、次の通りとなっています。

 

 

デラウェア州

ニューヨーク州

カリフォルニア州

ペナル

ティー

賦課

基準

供出漏れの額

故意による

報告書

未提出期間

報告書の

未提出

供出拒否

賦課率

年60%

(月5%)

1日あたり

100ドル

1日あたり

100ドル

一件5,000

ドル

上限

当該年度の

供出額の

50%

なし

10,000

ドル

50,00

ドル

利息

賦課

基準

供出漏れの額と

ペナルティーの

合計

供出漏れの額

供出漏れの額

年利

6%

10%

12%

上限

当該年度の

供出額と

ペナルティーの

合計の50%

なし

なし

 

調査への対策

未請求資産調査の対象期間は、原則として1981年まで遡るため、対応が遅れれば、リスクを含んだ期間が増えることになります。このため、対策は少しでも早く実施すべきです。一般的に有効とされる対策は、次の通りです。

 

  • 会社のマネージメント層に未請求資産に関するリスクを周知させる。
  • 会社の未請求資産に関するコンプライアンス状況を把握する。
  • 問題を回避するための経理プロセスを導入する。
  • 事業体、未請求資産の種類、管轄州、年度ごとにリスクを数値化する。
  • 未請求資産の報告手続を確立する。
  • 各州への年次報告書の提出を実施する。
  • 報告書の内容をサポートする証憑を整備する。
  • 未請求資産の担当者のトレーニングを実施する。
  • 関連法改正や税務調査の実施状況に関する情報をモニターする。

 

なお、上述の通り、形式的にでも申告書を提出すれば時効が成立する法人税や所得税と異なり、未請求資産の場合には、報告書を提出しても時効は成立せず、調査対象期間を短縮できる訳でもありません。従って、過去のリスクをどう清算するかの具体的な戦略なしに、形式的に未請求資産の年次報告書を提出することは、やぶ蛇になる恐れがあるため得策ではありません。

 

これまで未請求資産に関するコンプライアンス体制が不十分であった場合、最も有効な対策は、各州が実施している「自主開示プログラム」を利用することです。これは、平たく言えば、調査が入る前に「自首」することにより、少しでも有利な条件で州政府と問題の決着を図るという方法ですが、各州毎に不定期で実施されており、いつでも利用できる訳ではありません。一般的に自主開示プログラムの利点としては、次のものが挙げられます。

 

  • 対応のための時間やコストを大幅に削減できる。
  • 事前に対策を実施した上で交渉の主導権を握ることができる。
  • アグレッシブかつ一方的な供出漏れの発生確率の算定を回避し、会社側からリーズナブルな算定方法を提示できる。
  • プログラムの規定に基づき調査対象期間を短縮することができる。
  • ペナルティーや利息の免除を受けることができる。 

 

デラウェア州の新自主開示プログラム

上述の通り、デラウェア州は多くの在米日本企業の設立登記州となっていると同時に、未請求資産調査に積極的な州の筆頭格です。同州では、従来より、調査の対象となる以前に自ら名乗り出た場合には、遡及期間を通常の1981年から1991年までとし、ペナルティーおよび利息の減免を与えるプログラムが未請求資産局(State Escheator’s Office)により実施されていました。しかしながら、未請求資産局は、民間業者を成功報酬ベースで雇ってアグレッシブな調査を実施している部署そのものであり、このプログラムに応募した場合、調査を受けた場合と同様の厳しい対応がなされる傾向があったため、実際には利用者も少なく、自主開示プログラム本来の役割を果たしているとは言い難い状況となっていました。

 

これを受けて最近立法化された法律により、未請求資産局ではなく、州務長官(Secretary of State)による新たな自主開示プログラムが期間限定で実施されることになりました。その骨子は、次の通りです。

 

  • 2013年6月30日までにプログラムへの参加を申請し、2015年6月30日までに供出を完了(もしくは供出計画を確定)する場合には、遡及期間を1996年までとする。
  • 2013年7月1日から2014年6月30日までの間にプログラムへの参加を申請し、2015年6月30日までに供出を完了(もしくは供出計画を確定)する場合には、遡及期間を1993年までとする。
  • プログラム対象期間後の3年間については、未請求資産報告書を提出すれば、調査の対象としない。

 

なお、すでにデラウェア州の未請求資産局から調査の通知を受け取っている場合には、このプログラムには参加できません。また、このプログラムへの参加を促進するため、州政府は未請求資産局による調査開始通知書の発送を2月初旬まで一時中断するとともに、新プログラムを紹介するレターが州務長官から多くの会社のCFO宛に送付されています。この州務長官からのレターを受け取ったにも拘らずプログラムへの参加を申請しなかった会社は、今後調査開始通知書を未請求資産局から受け取る可能性が極めて高いものと考えられます。

 

まとめ

日本では同様の制度が存在しないことから、在米日本企業では、未請求資産制度へのコンプライアンスが徹底されていないケースが数多く見受けられますが、これを見越して、多くの在米日本企業が設立登記州として利用しているデラウェア州等が民間業者を成功報酬で雇い、在米日本企業に的を絞って非常にアグレッシブな調査を実施しています。中には、実際に多額の資金の供出を余儀なくされるケースも続出しているため、対策は喫緊の課題となっています。現在、期間限定で実施されているデラウェア州の州務長官による新たな自主開示プログラムは、デラウェア州で設立されている法人にとって未請求資産についてのリスクを断ち切る絶好かつ稀な機会ですので、本年6月30日の申請期限を逃さない様に、早急なアクションが望まれます。

 

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本文中の税務アドバイスは、弊社クライアントもしくはその他の個人や事業体が、①納税者に対して賦課される可能性があるペナルティーの回避を目的として使用することや、②調査対象事項について宣伝、マーケティング、推奨等を行うことを意図したものではなく、従ってこれらの目的には使用できません。

 

記事中の見解や意見は著者個人のものであり、必ずしもKPMG LLPのものではありません。また、記事中の情報は全て一般的なものであり、特定の個人もしくは事業体の状況への適用を意図したものではありません。

 

 

 

1. MissingMoney.com。全米未請求資産法施行協会(National Association of Unclaimed Property Administrators)運営のサイト。

 

2. Texas v. New Jersey, 379 U.S. 674 (1965)。

 

3. 一般的にデラウェア州で設立される会社が多い理由としては、①デラウェア州での法人設立手続等が比較的簡単であること、②年間の登記料(名目はフランチャイズ・タックス)が75ドルで済むこと(授権株式数が5,000株未満の場合)、③デラウェア州内で実際に事業活動を行わなければ州法人税の申告義務が発生しないこと、④州会社法上の株主の権利が比較的弱いため上場会社の経営がやり易いこと、⑤以上の理由から設立される会社の数が増えたため会社法上の判例が豊富にあり訴訟における予見可能性が高いこと、等が挙げられます。

 

4. 2011年6月30日に終了する会計年度の収支報告書による。

 

5. National Association of Unclaimed Property Administrators。

 

6. 連邦法人税の時効は通常申告書の提出から3年であるが、総収入の25%以上の所得の申告漏れがあった場合には、時効は6年に延長されるため、証憑の保存期間を期末から7年としているケースが多い。

 

7. KPMGとThe Conference Board Councilの共同アンケート調査(2010年2月~3月実施)による。

著者

著者

野本誠

KPMG LLP

税務部門パートナー

mnomoto@kpmg.com